八重樫がボクシングファンに支持される理由

長谷川亮

WBCフライ級王座V3を達成した八重樫は、いよいよ“怪物”ロマゴン退治へ 【t.SAKUMA】

 WBCフライ級王者・八重樫東は6日、同級8位のオディロン・サレタを9回ノックアウトで下し3度目の防衛に成功。アリーナの観客が総立ちとなる鮮やかなKO劇だったが、八重樫に会心の笑顔は見られない。勝利からすぐ、気持ちは次戦で迎える39戦39勝33KOの“怪物”ローマン・ゴンサレスに向かっていた。

鮮やかKO劇も笑顔なし「試行錯誤で中途半端」

右クロスのカウンターからの連打で鮮やか9回KO 【t.SAKUMA】

 八重樫にとってサレタは、オスカル・ブランケット(初防衛戦:昨年8月)、エドガル・ソーサ(2度目の防衛戦:昨年12月)に続き、3戦連続3人目となるメキシカンファイター。当初はフットワークを使った出入りのボクシングで封じ込めるのを狙ったが、「足が動かなかった」こと、サレタが「メキシカンのリズム」で「スピードがあった」ことからプラン変更を余儀なくされる。

「“厳しい試合になるな”と2Rぐらいから思っていた」という八重樫の予感は的中し、4R終了時の採点は2者が38−38、1者が39−37でサレタがリード。

 フットワークを使ったボクシングが思うに任せなかった八重樫はその後、プレスしていく戦法にチェンジ。そこから左ボディーを集めてサレタを削り、最後はロープに詰めたところで右クロスのカウンターを決め、直後につないだ連打で仕留めた。

 状況とコンディションに応じて戦略を変え、最終的にKOへつないだ見事な勝利に思われたが、八重樫自身の評価は「試行錯誤で中途半端だった」「最後もたまたま右が当たっただけ」と芳しいものではない。だがそれも、次戦でローマン・ゴンサレスという「ボクシングをやってきた中の一番高い壁」を見据えているからに他ならない。

日本のファンの前で実力を見せ付けたロマゴン

日本のファンの前で39戦39勝の実力を見せ付けたロマゴン 【長谷川亮】

 一方のゴンサレスはといえば、この日もフィリピン・ライトフライ級8位のファン・プリシマを一方的に追い回し、3回TKOでの圧勝。KO勝ちは33回目となり、85パーセントに上らんかというKO率は軽量級では驚異というほかない。

 試合後には「もう八重樫との対戦準備は整いました。八重樫は速くてパワフル、非常に動きのいい選手。左ボディーは八重樫戦を意識して出しました。八重樫とはグレートな試合ができると思うし、彼をKOするのが今の私の夢です。大変な試合になると思うので、マキシマムにコンディションを整えてきます」と、こちらもすでに八重樫戦へ意識を向けていた。

困難に挑み続ける“不屈の男”

あえて困難な道を選ぶ“不屈の男”をファンは支持 【t.SAKUMA】

 この日の井上尚弥に迫らんかのデビュー7戦目で世界初挑戦を果たすもアゴを割られて敗退し(2007年6月)、王座戴冠はそれから4年後(2011年10月)。ようやく手にした王座も井岡一翔に激闘の末奪われたが、再起を遂げ、アマチュア時代は4戦4敗と1度も勝てなかった五十嵐俊幸を破り、世界王者に返り咲いた。そんな不屈の男であり困難に挑む姿勢を持つ八重樫だからこそ、怪物退治に対するファンの支持が高まっている。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント