なぜ乾貴士は出場機会を失ったのか? 高かったピッチ外にそびえる“言語の壁”
チームとのコミュニケーション不足は明らか
彼の通訳や、フランクフルトの女子チームに所属する田中明日菜や安藤梢によると、乾はいつも自分の家にいて、ほとんどの時間を家族と一緒に過ごしているようだ。サッカー専門サイト『GOAL』は、アウェーゲームに向かう25歳のMFは、バスの中ではヘッドセットで耳を覆い、家から持ってきたタブレットPCで漫画を見ていると伝えている。
「アルミン・フェーはコミュニケーションがとても重要だと言っており、選手たちとドイツ語で話せることを望んでいる」と、フランクフルトのファンフォーラムを主催するティティアン・ボルツァーガは説明する。指揮官は、常に乾のファンだった。サポーターであり応援者であることに「今も変わりはないが、言葉の障壁があまりに大きいことに監督は悩まされている」という。この状況の終結や解決策は、まだ見えていない。「言葉を話さなければ、グループに入っていくのは難しい」とフェー監督も話しているが、乾にドイツ語の勉強を強要することはできない。
フェー監督「デリケートな生き物」
チーム内にも同じような状況にある選手はいる。乾とポジションを争うライバルである、トランクィロ・バルネッタである。「バルネッタは、とてもよくやっている」とバイトブレヒト記者は語る。やはりW杯を目指す同選手は、スイス代表のオットマー・ヒッツフェルト監督からはっきり言い渡されていることがある。「もっと試合に出ることが必要だ」と。
シャルケからフランクフルトへと移籍してきたバルネッタは、難しい現状においてフランクフルトが求めるものを正確に体現してきた。このMFは袖をたくしあげ、「フェーが例示するものを、しっかり自分も見せてきたんだ」(バイトブレヒト記者)
指揮官は選手たちに、ハードワークを要求する。バルネッタは、それを提供してきた。乾は違う。3月29日に行われた第28節のボルフスブルク戦を含めた直近の5試合で、先発メンバーに選ばれ続けてきたのはシャルケから期限付きで加わったバルネッタだった。「バルネッタはよくやったし、チームもよくやってくれた」とフェー監督は話している。乾が与えられていたかもしれない指揮官からの信頼の眼差しは、今は別の選手へと向けられている。小柄な日本人選手のことを「デリケートな生き物」と評するフェー監督は、「あまりに仕事量が少ない1人の選手から、前へと進むわれわれの歩みに影響を受けてはいられない」と話している。時間を与えるというよりも、もはや別れの言葉のように響く。
乾はフランクフルトを出て行くのだろうか? 「まだそんなことは言えない」とバイトブレヒト記者。フェー監督はすでに、今季限りでクラブを離れる意思を表明している。「なにせ、クラブは新監督を探すことで手いっぱいだからね」というわけだ。
この状況は、乾にとってはチャンスになるかもしれない。残り6試合の残留争いを勝ち抜ければ、この日本人選手はまた今夏、新監督の下で勝負に臨めるかもしれない。
ただし、チームになじむことができなければ、監督が変わろうともそのうちうまくいかなくなることは確実だ。真実とは、ピッチ上だけにあるものではないのだ。
<了>
(翻訳:杉山孝)