イタリアに蔓延するスタジアム差別問題 客席一部閉鎖や無観客試合が急増した理由
サポーターの差別的行為で観客席閉鎖の処分続く
イタリアでは今季、サポーターの差別的行為で観客席閉鎖や無観客試合の処分が相次ぐ。2月のローマvs.ナポリ戦でも、ローマサポーターの差別的チャントで処分が下された 【Getty Images】
昨年9月1日のローマ対ベローナ(ローマのゴール裏閉鎖)に始まって、これまでに処分を受けたクラブは、ユベントス、インテル、ミラン、ラツィオ、ベローナ、カリアリなど、リーグ全体の半分近くに上る。セリエAのTV中継で、観客のいないがらんとしたスタンドを目にした方もいらっしゃるだろう。
理由は、ほかでもない「サポーターの差別的行為」。ゴール裏のサポーターが、対戦相手の選手に対する人種差別的チャントや、相手チームやそのホームタウンに対する侮辱的なチャントを行ったことに対する処分である。
今季から厳しくなった「差別的行為」への処分
しかし今シーズンからは、UEFA(欧州サッカー連盟)が近年特に力を入れている反差別への取り組みを受ける形で、スタジアムにおける「人種、肌の色、宗教、性別、言語、民族または地域に対する直接的、間接的な差別的行為」に対しても、同じ基準による「厳罰主義」が適用されるようになっている(従来の処分は罰金のみだった)。
UEFAは2007年にミシェル・プラティニが会長に就任。その翌年となる08年以来、「RESPECT(リスペクト)」をスローガンに掲げたソーシャル・キャンペーンを立ち上げ、チャンピオンズリーグのTV中継で放映されるCMスポットなどを通して「肌の色や文化の違いをリスペクトしよう」というメッセージを送り続けてきた。差別的行為に対する罰則規定強化も、そうした流れの一環だ。
その結果、ミランのマリオ・バロテッリ、サリー・ムンタリ、ユベントスのパウル・ポグバ、クワンド・アサモアといった黒人選手に対するモンキーチャント、さらにはこれまで30年近く黙認されてきたナポリに対する侮辱的なチャントに対して、多くのクラブが次々とゴール裏閉鎖処分を受けるという事態になった。罰則規定の強化によって、以前から決して稀ではなかった差別的チャントの存在があらためて前景化した形である。
ゴール裏を占める「ウルトラス」が出どころに
ただ残念なことに、この国のゴール裏で歌われているチャントの中には、味方を鼓舞し勇気づけるものだけでなく、汚い言葉を使って相手のチームやサポーターを罵倒する、聞くに耐えないものが決して少なくない。これは個人的な印象だが、比率で言ったら90分のうち少なくとも20〜30分は、バカとか痴呆とかウンコとか死ねとか売女の息子とか、日常生活の中で面と向かって口にしたらすぐ殴り合いになるような語彙(ごい)を使って相手を罵るチャントが飛び交っている感じである。
そしてその中に、黒人選手に対する「bu、bu、bu、bu……」というモンキーチャント、ナチス式敬礼をはじめとする反ユダヤの政治的マニフェスト、さらにはナポリという特定の地域に対する偏見や差別感情に基づく侮蔑的なチャントまで、明らかに差別的な意図を持ったものが紛れ込んでくる。
黒人をはじめとする外国人(とりわけ移民)に対する偏見や差別は、イタリアに限らずヨーロッパ全体が抱える大きな社会問題のひとつ。イタリアでは、「ウルトラス」と呼ばれる、半ば職業化したコアサポーターのグループが、ゴール裏を群雄割拠しつつ支配しているのだが、その多くは外国人排斥をスローガンに掲げるネオナチ、ネオファシスト系極右政治団体の影響下にあり、差別的なチャントもほとんどはそうしたグループが出どころになっている。