勝負できる板を作る“職人”ワックスマン=パラリン距離陣を支える現職・高校教師

スポーツナビ

最後まで頑張り切るスキーを作る

ワックス担当のチーフを務める竹原健介さん。「“勝負ができる板”を作りたい」と力を込める 【スポーツナビ】

 ワックスマンとして2度のパラリンピック(98年長野大会、02年ソルトレイク大会)にチームスタッフとして帯同してきた竹原さんだが、学校の転勤などもあり、しばらくはワックスマンを休業。本業に専念していた。
 しかし今回、荒井監督たっての希望もあり、3大会ぶりに日本チーム入りを決意。大会前からチームのワックス担当チーフを務める。
 1月にフィンランド・ボッカティで行われたワールドカップ(W杯)からソチ仕様のワックス作りを行い、選手の意見を聞きながら仕上げてきた。また、ソチ入り後は連日、ワックスのテストを実施し、「例えばクロスカントリーのクラシカル種目なら午前10時スタートで11時すぎのゴールまでの雪質の変化を見極めて最終的な板に仕上げていきます」と最終調整を行っている。

 スキーを左右平行に保ちながら縦に滑らす走法で争うクラシカル種目では、グリップワックスの出来が大きく滑りに影響する。ワックスが強すぎると前に進むことはできず、弱すぎると踏ん張りが効かずやはり進みが悪くなる。「そのバランス、組み合わせを判断しています。そこには五輪の状況もヒアリングして決めています」とデータ収集に万全を期す。

「選手には力を全部出し切って悔いのないレースをしてほしいと思っています。ワックスは途中のタイムにも影響が出ますが、下り坂でいかに休憩できるか、そして最後のスプリント勝負にも関わってきます。私の仕事は最後まで頑張り切ることができるスキーを作ることなんです」

 竹原さんはこう力を込めた。

古い付き合い・新田にメダルを取ってもらうために

 今大会、竹原さんは前回バンクーバー大会で2つの金メダルに輝いたクロスカントリーのエース新田佳浩(日立ソリューションズ)の板を担当している。竹原さんと新田はパラリンピック長野大会からの古い付き合い。だからこそ、竹原さんはこう強調する。

「新田の狙うクロスカントリーのクラシカル種目は若い世代の選手たちが続々と出ている。しかし、そんな中でも新田はW杯で3位(ドイツ・オーベストドルフ大会)に食い込んでいくなど、『おじさんでもまだできるんだぞ』というところを見せてくれています。私の中学の1つ先輩でもある(ソチ五輪ジャンプ男子でメダルを獲得した)葛西(紀明)選手に通じるところがある。ぜひメダルを取ってほしい。
 それがすべてではないですが、パラリンピックは五輪に比べて露出も少ないので、結果を出さないと『頑張ったね』で終わってしまうと思うのです。だから、私たちは選手に最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくり、1秒でも速くゴールできる“勝負ができる板”を作りたいなと思っています」

 新田は10日の男子20キロ・クラシカルに出場予定。レース後、歓喜の瞬間をいっしょに味わうために、竹原さんらワックスマンは日夜、戦い続けている。

<了>

(取材・文:森隆史/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント