クロフネの夢の続きをベルシャザールで=松田国英師「年度代表馬が究極の目標」

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“勝つ”ということと“壊さない”ということ

壊さずに強くする、その極意とは―― 【netkeiba.com】

 故障の恐怖と戦いながら、フェブラリーSへのトレーニングを重ねている現在。壊さずに強くする、その極意とは――。

「今のトレーニングは、延長線上にフェブラリーSがあるということくらいで、そこまでに何かを修正しなければということは、もう何週間も前からないです。ただ、不安がないというのは、怖いこともある。走るというのと、壊れるというのと。勝つというのと、壊してはいけないというのと。自分としては怖いです。
 では調教でどうするのかというと、歩度を伸ばす平地の調教は控えて、インターバルの坂路2本で鍛えて行く。これ以上歩度を伸ばしたら壊れるリスクがあるかなとか。とにかく、そういうことばっかり考えてます。ここ5週間くらいは歩度を伸ばす調教は控えて、壊さないようにダートを勝つというところに重点を置いてる。壊さないで勝ち進めていけるという手応えはあります」

 芝もダートも走ることが出来る、特別な能力を持ったベルシャザール。この特別な能力とは、一体何なのだろうか。

芝馬をダートで走れるようにするには

クロフネはなぜ芝でもダートでも強かったのか? 【netkeiba.com】

 日本の競馬の長い歴史の中でも、芝とダートの両方で頂上決戦に挑める馬は少ない。ではなぜ、クロフネとベルシャザールはそのどちらでも力を発揮することが出来るのだろうか。

「芝とダートでは、肉体的にも精神的にも求められるものが違います。まず肉体ですが、ダートに適しているのは前脚を高く上げる走法、芝では体を低くして走る走法の馬がいい。でも、芝向きの走り方をする馬でもしっかりと筋肉を鍛錬すれば、ダートでも走れるようになりますし、ダート向きの走りをする馬よりもすごいパフォーマンスを発揮できるんです。
 ダートを使って来ると、筋肉が岩のように盛り上がって来ますよね。芝の場合あれだけ筋肉を付けたら邪魔になるかもしれないくらい、ダートを使ってくると筋肉が太くなって、盛り上がって来るんです。そうすると、歩幅は芝の歩幅で走る、なおかつそれを動かす筋肉は鍛錬されているので、馬体の上の方の関節の可動域が非常に大きく動かせるのです」

 芝での走りをベースに、その上にダートの筋肉を付けて行く。今の日本の施設を使えば、ある程度の鍛錬は可能だという。しかし、クロフネとベルシャザールが特別なのは、肉体だけでなく、心の部分が大きいのだ。

「勇気のない馬って言ったら、馬に対して失礼かもしれないけれど、ダートを走る馬は自分が強いと言うことを自負しつつ、勇気がないと。有言実行じゃないとダメなんです。『俺は強い!』って言って、砂を被ったら怯んでるようじゃダメですよね。それは鍛錬ではどうすることも出来ないので。もともと持っている資質が大事なんです」

 ベルシャザールにとって初の重賞制覇となった武蔵野Sでは、直線でかなり狭いところを割って伸びて来た。ジャパンカップダートでも他馬との接触があったが、それで闘争心に火がついたという。勇気がある馬。それがダートで強い秘訣なのだ。

「クロフネは、黙っていても自分が強いって言うのがにじみ出てました。でも普段は、自分が強いということを一切言わない。人が強いっていう自慢話を黙って聞いてるタイプでした。同じ時期に居たボーンキングが、『俺の方が強い!』って言って、蹄と蹄を合わせてカチンと音を立てて威圧しても、クロフネは冷静でしたから。
 ベルシャザールも、自分で強いと思ってますね。馬運車に乗る時などは、一頭で行ったり来たり出来る、しっかりした性格です。でも洗い場では、他の馬が移動すると鳴いたりして(笑)。他の馬が出て行く時に、『俺がいるのに何で先に行くんだ』っていうようなことをゴチャゴチャ言ってますね(笑)」

極限を求められるのが芝のレース

「芝は極限のスピードを出す戦い」と松田国師 【netkeiba.com】

 しっかりと自分を持っていることが求められるダートに対して、芝で求められる強さとは何なのだろうか。

「芝は、自分の持っている限度を超える走りをしなければ、大きい所は勝てないです。我を見失うくらい、極限で走れないと。いつも自分をしっかりと持っていては、あの時計では走れません。どれだけ頑張らせてもね。芝の場合は持ってる資質だけではGIを勝てなくて、だいたい3回目でGIに持って来るんですけど、それまでの2回は競馬に出走させて、負荷を掛けて、身を削いでいかなければならない。
 芝はご飯が食べられなくなるくらい負荷を掛けるんですよ。そうすると腹が巻き上がっていく。体を削ぎ落して、あり得ない体になってでも走るっていう。普通ならあれだけ削いでしまったら、ヨタヨタですよ。日々の生活が出来るか出来ないかまで削ぎ落として、極限のスピードを出す。それが芝の戦いです」

 正反対とも思える2つの強さを持ち合わせたクロフネとベルシャザールは、やはり特別な存在だ。

「クロフネを見てもわかるように、だから種馬になっても成功しますよね。最初の体の造りが、芝で走れるというのがいいんです。それがなければ、ダートのGI馬が揃って出て来るレースで、うちの馬が一番強いって言えないですよ。ダービー3着になるまでの能力は、ダートだけ使って来てる馬と比べても、相当レベルの高いレースを使って来ているわけですから。芝向きダート向きと言われますが、クロフネとベルシャザールは、今までのダート馬とは捉え方が違うんです」

 芝の強さを持った上で、さらにダートの強さを身につけて来た。ここから先は、クロフネが歩めなかった未知の領域が始まる。

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