完全無欠ではなかったバイエルン。それでも「最後に勝つ」のは、やはり……

木崎伸也

ペップ・バイエルンが描く巨大なロンド

「とにかくボールを支配しろ」と指示をしたというペップ・グアルディオラ。支配率73%で思惑通りの勝利を収めた 【Getty Images】

 今、バイエルンでは、システムの新しい概念が生まれつつある。
 通常、サッカーのシステムでは「4−3−3」や「4−4−2」というように、平行に並んだ「列」によって形作られる。
 だが、ペップ・バイエルンは違う。外側にいる選手たちが「円」を作るかのように相手を包み込み、同時に、中央で選手たちがパスコースに顔を出す。巨大なロンド(パス回し)のイメージだ。

 アーセナル戦では、「円」の内部でクロース、チアゴ、マルティネスが自由に動き、機を見てSBやサイドハーフの選手たちが中に入ってくる。もはやバイエルンの中盤は、ダブルボランチやアンカーといった既存の概念では表現できない。
 10人になったアーセナルは、バイエルンの「巨大なサークル」に包み込まれ、ゴール前に張り付けになった。パスやシュートを跳ね返しても、すぐにバイエルンに拾われてしまう。

 バイエルンの先制点は必然だった。後半9分、中央にいたクロースが、ラームからの横パスをダイレクトで打ち、シュートをネットに突き刺した。
 ペップは1点のアウエーゴールだけでは満足できなかったのだろう。ベタ引きの相手を攻略するために、混戦に強いミュラー、競り合いに強いピサロを投入する。終了間際、ラームのふわりと浮いたパスを、ミュラーが頭で合わせてダメ押し点が決まった。

昨季と同じ轍は踏まぬよう

 2−0で先勝したことで、バイエルンは勝ち上がりに大きく近づいた。だが、バイエルンに油断はないだろう。昨季も決勝トーナメント1回戦でアーセナルと対戦し、苦い経験をしているからだ。バイエルンは敵地での第1レグを3−1で圧倒しながら、第2レグで気の抜けた試合をして0−2で敗れてしまった。アウエーゴールの差で辛くも準々決勝進出が決まったものの、紙一重の勝負だった。

 キャプテンのラームは言う。
「昨年の経験を、警告にしなければならない。一瞬の油断で、試合は動く。再び集中し、キックオフから全力でプレーする必要がある」

 ペップ・バイエルンは不思議なチームだ。相手に隙を与える時間があり、展開がドタバタするのだ。なのに、結局最後はバイエルンが勝つ――。こういう不安定さが、完全無欠なバルセロナ時代とは違い、妙な愛嬌(あいきょう)になっている。
 3月11日にミュンヘンで行われる第2レグも、きっとどこかで隙が生まれ、アーセナルにもチャンスが生まれる展開になるに違いない。それでも最後に勝っているのはバイエルンだろうが……。

<了>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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