「下町ボブスレー」が描く次の夢=ソチ不採用を糧―4年後の平昌へ向けて
日本選手権では2号機が2位、3号機が5位という好結果を残した 【写真は共同】
しかし、一度掲げた夢を諦めるという選択肢は下町ボブスレーに携わるメンバーにはなかった。ソチ五輪不採用が決まった後も、2号機、3号機の改良を進め、12月には長野で行われた全日本ボブスレー選手権に出走している。
全日本選手権では、2号機にパイロットの脇田寿雄、ブレーカーの中村一裕が乗り込み2位に。3号機にはパイロットの徳永翔、ブレーカーの和久憲三が乗って5位という結果を残している。
2号機、3号機ともに全日本選手権で好成績に
大野「全日本に間に合わせたというのは、すごいことだったと思います。2号機に出されていた改修項目はすべて終わっていて、レースでも結果が出ました。
僕らモノ作りをしている人間は、既製品を売って10の性能は出せるんです。でも僕らはその性能を15にでも20にでも、その先に行ける可能性があると思って改良しています。諦めちゃいけないっていう気持ちでやっているんです」
小杉「2号機が2位で、3号機は5位。3号機に関して言うと、乗り込んでくれる方には、昨日今日の練習で乗っていただきました。かなりぎりぎりでしたが、それでも遅くはなかっですし、まだまだ伸びしろがあると思っています」
大野「2号機も2位になりましたが、これはもちろんランナー(そりとコースが接する部分のパーツ)が良かったこともありますが、そりの性能も良かったと実証されたと思います。脇田さんは片足をけが(右足の肉離れ)していたため、初速は遅かったけど、リザルトを見ると、だんだん加速が上がっていって、減速しなかったんです。それで結果が出たのかなと。
この2年間で3台作り、物すごいスピードの中でやってきて、結果を残せたのは、良い検証ができたなと思います」
4年後までに「ジャパンオリジナル」のそりを!
大野「モノ作りで言うと、大田区は世界のトップレベルにあると思います。部品なり、パーツなり、モノを作る技術は、BMWにもフェラーリにも劣らないものを持っていると思います。あとはその全体を組み合わせた時、パイロットなどに合わせるなどして、ボブスレーを追及していきたいです。
多分、世界も新しいものをどんどん開発してくると思うのですが、同じものを作っていこうとは思いません。「日本オリジナル」として、日本人のモノ作りの発想とか、発想の転換で、世界と差別化したいです。それはすぐに到達できるものではないと思うんですけど、試行錯誤があって、早く検証して、改良していくという形になると思います」
小杉「モノ作りの部分以外にも選手育成に力を入れないといけませんね。やっぱり連盟で登録されている選手が100人程度しかいないわけで。あとは育成といっても知ってもらわないといけないので、そこでどうやってボブスレーを身近に感じてもらうかですよね。
結局、今回のソチ五輪ではジャマイカが12年ぶりに出るということで、すぐに映画が思い出されます。話題先行になるけど、マイナースポーツはこうやって興味を持ってもらって、みんなが見たいと思う競技になれば、競技環境も改善するのかなと思います。
私たちは今まで、図面をもらって作るだけでもありましたが、今回のプロジェクトが動く中で、広報として『こんな反応があるのか』というのも分かったし、反響も返ってきました。協力を得るとか、今までにない経験を得たり、会えないような人にも会えたりするし、色々な経験ができました。大田区はボブスレーでしたが、ほかのところでも同じような活動が起こり、『日本を元気に!』という機運が起これば、うれしいですね」
――ボブスレーのそりを作るという活動だけでなく、ほかの部分に波及していければということですね。
小杉「もちろん私たちはモノ作りで精いっぱいですが、今度は4年。五輪に採用してもらうには後3年ぐらいまでにそりが出来上がらないといけません。ソチに行こうという急な展開で手探りでやってきたこの2年間は初速が違うと思うので、そこはこれから何ができるかが問われるでしょうね」
大野「ボブスレーという競技を知っていくと、やっぱり面白いわけなんですよ。世界選手権やワールドカップの映像を見ていて、それが面白くて引かれていきます。引かれていくと、この部品はどう使われて、どう作用しているか、非常に興味が湧いてくるんですよね。今度はこう作ろうとか、この部品はどう使われるのかとか、意識しながら作れるので、次の4年でそりを作る時には、そりの乗り心地も良く、選手の気持ちをも見越したものを作っていきたいですね」
――そして平昌五輪のコースを走るという夢に到達すると。
小杉「そうですね。そこでBMWやフェラーリのそりと一緒に走っている姿を見たいですよね。競い合って、勝ったり負けたりが面白い!」
大野「いろいろな発想を持って開発していきたいです。特にランナーは日本オリジナルの『ジャパンランナー』ができたら、世界も注目するでしょうね。そこで変わってくるので、継続してやっていきたいです」
(※インタビュー本文、敬称略)
<了>