町田樹が蘇らせる『火の鳥』=フィギュア プログラム曲紹介Vol.4

いとうやまね

ロシアを代表する「イワン」

『火の鳥』はその演技とともに、衣装にも注目だ 【坂本清】

 クラシックバレエ『火の鳥』のストーリーは、いくつかの民話からインスピレーションを得て作られています。そのベースには、19世紀の詩人ヤコフ・ペトロヴィッチ・ポロンスキーの同様の詩があることも知られています。

「イワン」という名の王子は、ロシア民話に登場する英雄としては定番中の定番で、なぜか3人兄弟の末弟という設定が多いようです。前向きで好奇心旺盛。国を飛び出しどこへでも出かけて行ってしまうので(例えばドラゴン退治とか、火の鳥を捕まえに行くとか)、三男坊という立場はちょうど良いのかもしれません。実際のロシアの王様や皇帝にも有名なイワンが6人ほどいます。

「火の鳥」はどの民話でも主役ではありません。それでも、なくてはならない重要な役どころを象徴的に担っています。バレエではたいてい女性が演じているのですが、鳥にセクシャリティーを持たせる演出は、ほぼないので、「オスでもなければメスでもない」というのが正解なのかもしれません。
 町田選手によれば、以前は火の鳥を「中性的に演じていた」ということですが、ソチに向けては、力強さと男性的な要素を付加させているとのことです。

 演技のテーマに「再生」というキーワードがあるそうですが、それは本家のストーリーとも共通するものだとお気づきになられたと思います。魔王に乗っ取られた王国と、魔法をかけられ捕らわれの身になった王女とお城の人々。そのすべてが火の鳥とイワン王子の活躍によって蘇る。『火の鳥』はまさに「再生」の物語なのです。

火の鳥を彩る衣装

 フィギュアスケートでは、選手たちの衣装を見るのも楽しみのひとつです。『火の鳥』の衣装は、バレエ、オペラ、演劇、フィギュアスケートと、どの分野においてもデザイナーの腕の見せどころになります。フィギュアスケート界では、過去に何人もの選手が火の鳥として氷上を舞い、私たちスケートファンの目を楽しませてくれました。

 安藤美姫さんの火の鳥の衣装はどれも美しく、彼女のダイナミックな身体にぴったりでしたね。手のひらまでを赤く染めた中野友加里さんの火の鳥も印象的です。速度を上げて滑っている時やスピンでは、その赤い手のひらが炎のように見えました。また、ロシアのペアのヤナ・ホフロワ、セルゲイ・ノビツキー組のホフロワ選手の衣装は、世界中のファンをあっと言わせるほどにセクシーなものでした。

 町田選手の衣装も、以前のものよりカットが大胆になり、より一層体の動きをシャープに見せていると思います。ソチでは新しい衣装になるのでしょうか。それとも、今季、飛び続けてきた勢いを同じ衣装に込めるのかもしれません。

 バレエの世界でも見事な衣装がたくさんあるので、お時間のある時にでもネットで検索してみてください。画家のマルク・シャガールがデザインしたという、49年の衣装も博物館に残されています。さまざまな時代や国を越えて、『火の鳥』のアイデアや表現を楽しめると思います。ぜひどうぞ。

<了>

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著者プロフィール

サッカーおよびフィギュアスケートのコラムニスト、サッカー専門TV、欧州実況中継、五輪番組のリサーチャー。コメンテーターとしてTVにも出演。Interbrand、Landor Associates他で、シニアデザイナーとしてCI、VI開発、マーケティングに携わる。後に、コピーライターに転向。著書は『氷上秘話〜フィギュアスケート楽曲プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱』他、構成『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子)他。

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