町田樹が蘇らせる『火の鳥』=フィギュア プログラム曲紹介Vol.4

いとうやまね

『火の鳥』を演じて飛翔する町田。さまざまな時代や国を越えて舞う 【坂本清】

 ソチ五輪が行われる国、ロシア。そのロシアの民話にはよく「火の鳥」が登場します。ロシア語だと「ジャール・プチーツァ」。直訳するならば「熱鳥」です。バレーや演劇、絵画や子供の絵本には、炎のように赤い羽根を持ち、舞い飛ぶごとに金色の光も宙を舞う……そんなイメージが多いようです。フィギュアプログラム曲紹介第4回は、町田樹(関西大学)の演じる『火の鳥』をお送りします。

クラシックバレエ『火の鳥』のストーリー

 フリースケーティングのプログラム曲である『火の鳥』は、もともとバレエのために作られた曲です。ロシアの大作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーの出世作と言っても過言ではありません。1910年、ロシア・バレエ団がパリのオペラ座で公演をした時には、ストラヴィンスキーは若くて無名の音楽家でした。火の鳥の初演の大成功以降、名前が世に知れ、仕事が増えたということです。

『火の鳥』のあらすじはこのようなものです。

 不死の魔王カスチェイの庭園には、黄金の果実が実る大きな木があります。そのキラキラ輝く実を食べに火の鳥がやって来ます。そこへ、今度はその火の鳥を追ってイワン王子が登場。そっと後ろから忍び寄り、火の鳥を捕まえてしまいます。火の鳥は自らの黄金の羽根1枚と交換に、王子に逃がしてもらいます。

 しばらくすると、カスチェイの城に捕らわれている13人の王女たちが現れます。王女たちは黄金の果実の木の下で踊り始めるのですが、イワン王子はそれを陰から見ています。そして、ひときわ美しいひとりの王女に目を奪われ、表に飛び出します。そこで王女ツァレヴナと恋に落ちるのです。

 夜が明けると、ごう音とともに城門が閉まり始め、王女たちは城の中へと消えていきます。まもなく魔王カスチェイの番兵である魔物たちとの戦いが始まり、恐ろしい魔王カスチェイも現れると、イワン王子はいよいよ窮地に立たされます。王子は思い出したように火の鳥からもらった黄金の羽根を高くかざします。すると、どこからともなく火の鳥が舞い降りてきて踊り始めるのです。その不思議な踊りの力で魔物たちは眠ってしまいます。

 優勢になったイワン王子は、木の根元に隠されていた大きな卵を天に突き上げます。その中には魔王カスチェイの魂が入っているのです。王子はその卵を地面に叩きつけると、ごう音とともにカスチェイの城と魔法は消え去り、魔王カスチェイも滅び去ります。すると、魔法から覚めた城の家来たち、続いて王女たちが出てきます。イワン王子はツァレヴナと結婚式を挙げ、大団円を迎えます。

 フリースケーティングの4分半の中には、火の鳥が庭園に現われるシーン『火の鳥の踊り』『火の鳥のヴァリアシオン』、イワン王子が王女たちと出会い恋に落ちるシーン『王女たちのロンド』、魔王とその一派と戦うシーン『魔王カスチェイの凶悪な踊り』、ラストの結婚式『終曲』など、バレエの中にあるいくつかの曲が出てきます。
 音源は1919年版組曲から取られているのですが、演技の構成上、若干順序が変わっています。それでも、おおよそのストーリーが感じられる流れになっており、町田選手の演じる火の鳥の目線で、もしくは、皆さんがイワン王子になって火の鳥とともに戦う目線で物語を感じるといいかもしれません。

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著者プロフィール

サッカーおよびフィギュアスケートのコラムニスト、サッカー専門TV、欧州実況中継、五輪番組のリサーチャー。コメンテーターとしてTVにも出演。Interbrand、Landor Associates他で、シニアデザイナーとしてCI、VI開発、マーケティングに携わる。後に、コピーライターに転向。著書は『氷上秘話〜フィギュアスケート楽曲プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱』他、構成『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子)他。

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