富山第一・大塚監督の個性を生かす育成法 海外留学で学んだ指導者としての原点

平野貴也

日本と海外の指導方法の違い

大塚監督は育成年代でファウルが多いことが気になるという。その対応策について独自の見解を示した 【平野貴也】

――指導方法に関してもカルチャーショックがあったのでしょうか?

 当時、日本ではC級のコーチングライセンスを取る条件が「リフティング100回と12分間走で2800メートル」だと言われていました。でも、イングランドでは指導案を書いて、まずはやらせてみる。そこにアドバイスが入ります。現地で国際コーチングライセンスを取得しましたが、ライセンスを取る方法がこれだけ違えば選手の差が出るのは当たり前だと思いました。指導の仕方を教えてもらったりしているうちに「オレだって子どもの頃からこんな風に教えてもらえば、もっとうまくなれたに違いない」とか、「もっと楽しめたはずだ」と思いました。それが僕の指導者としての原点になっています。だから、めちゃくちゃ勝ちたいとか日本一になりたいというのがスタートではないんです。もちろん、試合があれば勝ちたい。だから、勝つためにどうすれば楽しめるのかと考えるわけです。子どもって作戦を立ててやるのが好きじゃないですか。あの感覚です。今でも教え子には「サッカーって楽しいな」と思って卒業してもらいたいという気持ちが一番強いですよ。

――海外で見聞を広げた後で、日本に違いを感じたのはどんなところですか?

 昔、多くの外国人が日本の選手のことを「ソニーのウォークマンみたいだな」と言っていました。性能が高くて指示したことはやるけれど、ほかに特徴がないという話です。最近でも「ポゼッション(ボール保持)」という言葉が広まると、「ゴールを奪いたいから、この場面では速く攻めよう」という話が出てきそうなところでも、なぜかボールを保持することがとにかく大事になってしまっているチームが出てきて、違和感がありました。
 今でも海外などを参考に「この練習方法が良い」と言われると、みんながそればかりになる傾向があるように思います。だから、選手にアドバイスをするときは少し気をつけています。僕は「ダメだ」とは言いません。ヒールキックでパスを出してもいいです。ただ、それがつながらないようであれば「もっと確実な方法があるよ」と教えます。できれば、まずは選手の思うようにやらせて、少しずつ助言をして理想のバランスに寄せていくというのが理想的だと思います。

――練習方法などでも海外の影響を受けていますか?

 イングランド留学で細かい駆け引きの動きなどを教わったので、それは選手に伝えています。ただ、練習方法の全般に関しては、2005年にアルビレックス新潟シンガポールの監督になる前、古河電工のつながりでお会いしたイビチャ・オシムさんのアドバイスを大事にしています。オシムさんからは「対人を多くやりなさい、コーンはボールを奪いに来ない」と教えていただきました。日本人には実戦経験が足りないという話でした。そのときから、今に至るまで練習方法はほとんど同じですね。コンディショニングをやって、ミニゲームという流れが基本。戦術的な練習の合間に各自が個人練習を行うというスタイルです。

手段を選ばない勝ち方はダメ

――優勝後の会見では、地元で自宅通いの子だけでやってきたというお話から「日本の育成感も変わるのではないか」と話されました。影響を受けるチームが出てくるように思いますが、ほかにも日本の育成界に対して提言したいことはありますか?

 先ほどの個性の話につながりますけど、テクニシャンばかりが目立つというのも違う気がしています。身体的な能力も含めて、選手には個性があります。選手の特徴を出しながら勝てるように工夫しないと、多分やっていて面白くないものになると思います。それと、勝利を目指すのは当然ですが、手段を選ばなくなったらダメだと思います。特にファウルが多い試合がいまだに少なくないのは気になります。プレミアリーグWESTでも勝ちたいという一心でファウルをしてしまう選手を見かけますが、それではリーグ戦を整備した意味がないと思います。ファウルの数より質の話だという議論もあると思うので一概には言えませんが、一定のファウル数を超えたらチームにイエローカードだとか、勝点を没収するなどの対応策があっても良いかもしれません。

 プロの世界で「戦術的なファウル」が話題に上がることがありますが、僕は基本的にボールを奪いに行くのではなく相手の体を押さえに行くというようなやり方は違うと思っています。プロの世界はともかく、特に育成の世界ではもう少し気をつけた方が良いのではないでしょうか。勝負は勝つから楽しいという部分があるのは間違いありませんが、そのためにファウルが増えるというのは、納得いかないですね。

――では、最後に今後の抱負を聞かせて下さい

 基本的にはこれまでと変わりません。地元のジュニアやジュニアユースで育ってきた選手の特徴をしっかりと見たいですね。チーム全体で守備ブロックを作って組織的に守り、ボールを奪ったら速く攻めるというスタイルは当分変わらないと思います。その中で、選手の特徴や組み合わせを見て少しずつ修正していく育成を続けたいと思います。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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