錦織圭、ナダルに健闘も現地に驚きなし 期待値高いゆえに求められるさらなる結果

山口奈緒美

意外と冷静だった海外メディアの反応

試合後の会見に臨む錦織。出席者の中で日本人以外の記者はわずか2人だった 【Getty Images】

 日本のメディアの多くはこの健闘を称えたはずだ。大会を通じて中継を行っているWOWOWだけでなく、NHKでも急きょ放送したそうだから、より多くのファンが感動したことだろう。

 だが意外にも、海外メディアの反応は冷静だった。試合をプレス席で見ていた日本人以外の記者は少なく、最後まで残っていた人は2人程度。試合の様子はプレスルームでも、個々のデスクに設置されたモニターで見ることができるので、もちろん試合を見ていなかったわけではないが……。試合後の記者会見はメインインタビュールームで行われたが、日本人以外の記者はやはり2人。英語の質問は1つあっただけだ。

 その訳は容易に理解できる。錦織がナダルに善戦するくらいの選手であるという評価はすでに固まっているのだ。今さら驚くことでも褒め称えることでもないのだろう。錦織は、昨年、世界11位まで上りつめた選手であり、すでに3度のツアー優勝を果たしている。加えて、年間9億円(想定)ものスポンサー契約を持つと報じられたスターである。

 たとえば同世代でよく比較されるカナダのマイロス・ラオニッチが、同じような試合をしたとしよう。それなら多分筆者も、2セットを取られた時点で席を離れると思う。勝負はついたという判断だ。何しろ相手はナダルなのだ。高いチケット代を払ってテニスを観に来ている観客の立場なら、もちろん最後まで試合を楽しむが、それは「ジャーナリスト」と呼ばれる人たちの仕事ではない。

 だからなおさら、錦織には5−4とリードした第3セットを何がなんでも取って、勝負をもつれさせてほしかった。もし最終セットまでいっていたら、外国の記者たちも慌ててぞろぞろセンターコートへやってきただろう。何かが起こるかもしれない空気を肌で感じるために。

トップ10入りへ、テーマは「変わること」

 結局、多くのジャーナリストたちの予想や判断は裏切られなかったわけだが、翌朝の『エイジ』紙や『シドニー・モーニングヘラルド』紙に掲載されたベテラン記者、グレッグ・バウム氏の記事は錦織への温かい激励で締めくくられていた。

「うなだれる必要はない。<プロジェクト10>は順調だ。彼のテニスの真骨頂は折り紙のようなもの。ただの紙が非常に美しく精巧な芸術品となる」

 錦織の類いまれな才能は、これほどまでに認められている。グランドスラム・タイトルをナダル、ノバック・ジョコビッチ(セルビア)、そしてアンディ・マレー(英国)で分け合う今、ポスト世代の代表格である錦織に対する評価のハードルが上がるのは当然のことなのだ。

 さて、錦織はこのハードルを今年クリアすることができるだろうか。長い間の課題だったスタミナ面に自信がついてきたのは、それを占う上でポジティブな材料になる。

「4試合を戦って、痛いところがどこもなく戦えているのは、前はなかったこと。そう考えると、体が強くなったのかなと思います」

「変わること」を今年のテーマに掲げている錦織。フィジカルを変え、プレーを変え、メンタルを変える。それが今年こそトップ10入りを果たすために必要なことだと考えているからだ。

 その決意が垣間見えたシーズン開幕からの1カ月間。外国メディアがどうであれ、私たちには、紛れもなくドラマチックな序章だった。そして、まだまだドラマチックになることを予感させる序章であった。

<了>

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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