高梨沙羅、W杯7戦6勝で死角なし=強さの秘訣は『ベスト』を出せる再現力

スポーツナビ

歴代最多優勝回数の女王が見せる謙虚な姿勢

W杯ジャンプ女子札幌大会で連勝した高梨。今季7戦6勝と他の追随を許さない絶対女王の強さの秘訣とは? 【写真は共同】

「自分のやるべきことをやって、見に来てくれた方たちが楽しんで帰ってもらえるようなベストのジャンプをしたい」

 ノルディックスキー・ジャンプ女子の高梨沙羅(クラレ)は、大会前の意気込みをこう語っていた。
 FISジャンプ ワールドカップ(W杯)レディース札幌大会第1戦・第2戦(1月11〜12日、札幌市宮の森ジャンプ競技場)は、地元凱旋となった高梨が圧倒的な強さを見せて2連勝を飾った。これで今シーズンのW杯では他の追随を許さず7戦6勝。通算優勝回数も15に伸ばし、歴代最多1位となった。

 そんな絶対的な強さを誇る“女王”ではあるが、彼女から発せられるコメントには一切のおごりがない。「飛んだ先に応援して迎えてくれる人たちがいるので、声援をプラスにできた」(第1戦優勝後のコメント)、「(ランディング)バーン(編集部注:着地してからの滑走路のこと)を整備してくれる人たちが頑張ってくれていたので、それを見て頑張ろうと思った」(第2戦優勝後のコメント)と、自身の技術の高さで勝利しているというよりも、周りの人たちの支えによって、自分は勝たせてもらっているという姿勢を見せる。

「私は技術的にはまだまだだと思う。(W杯の最多優勝回数記録については)特に何も考えていない。そういうものは考えず、内容をレベルアップできるようにしたい」

 高梨は、ただ勝利にだけこだわるのではなく、常に向上心を持ってベストなジャンプを追及しているのだ。

ライバルも認める高梨の安定感の高さ

悪コンディションとなった札幌大会の中で、安定したジャンプを再現した高梨。第2戦2位のマテルも、高梨の安定感の高さを認める 【写真は共同】

 しかし、ただ周りの声援に応えるだけで優勝ができるほど、女子ジャンプの世界は簡単ではない。もちろんそこには高梨の才能と強さの秘訣(ひけつ)がある。
 札幌大会第2戦で2位に入ったコリーヌ・マテル(フランス)は高梨について、「私との一番大きな違いはコンスタントに良いジャンプをしているところ。私は波があり、良いジャンプもあれば、悪いジャンプもある」と安定感の違いを挙げる。

 実際、高梨が札幌大会で飛んだ4本のジャンプは、すべて90メートルのK点越え。本戦前の試技でもすべてK点越えをしている(第1戦の試技ではヒルサイズ越えとなる103メートルの大ジャンプを見せた)。
 今大会は2日間を通して、ジャンプ台の風が安定せず、競技が止まったり横殴りの雪が降り視界が悪くなるなど、選手には厳しい気象条件となっていた。しかし、その中でも高梨は、常に安定したジャンプを再現して見せた。

 どんなスポーツにおいても、『ベストな力を発揮する』ことが勝利につながる。しかしベストを生み出すためには、緊張やプレッシャーなどによるメンタル状態、競技場の良し悪し、けがや疲労などによるコンディションなどにかかわらず、常に同じ力を発揮する技術が必要だ。その点において高梨は『ベストのジャンプ』を繰り返す能力に優れており、ここまでの勝利に結びついていると言える。

 高梨自身、今季唯一3位となった1月4日のW杯ロシア・チャイコフスキー大会での課題を「自分のポジションで滑れず、良い感覚ではなかった。原因はアプローチだと思う」と敗因を語っている。つまり技術的な部分で“いつもの感覚”からずれたことで、ベストパフォーマンスが再現できなかったと考えていいだろう。

『ベストのジャンプ』を生み出す“世界一の努力”

 ではその『ベストのジャンプ』を再現する上で、基盤になっているのは何か? 女子ジャンプの先駆者的存在で、日本代表チームのコーチを務める山田いずみさんに、高梨の強さの秘密について聞くと、「彼女は“世界一の努力”をしている」と、その練習量やジャンプに対する研究熱心さを挙げる。

 高梨は151センチ、43キロと小柄な体型のため、パワーやもともとのジャンプ力で他の外国人選手に勝っているというわけではない。むしろそのハンディキャップを克服するため、繰り返しトレーニングを行い、タイミングや感覚を体に染み込ませ、常にベストの力を発揮できる状態を生み出し、本番への大ジャンプへとつなげている。
「ジャンプ競技というのは、やるべきことは常に一緒。基本的な動きは一緒です。その中で(ジャンプ台によって)感覚は違うけれど、それを気にならないようにすることが大事」と山田コーチは説明する。

 高梨は第2戦を終えた後、メディアに「(代表に内定している)ソチ五輪本番への不安はあるか?」と質問されると、少し考えてから「不安な部分はないです」と返答した。それは、ソチの本番でもやるべきことは一緒で、『ベストのジャンプ』を再現するだけだと言っているようにも感じられた。

 その再現が達成できた時、表彰台の一番高い所に立ち、多くのファンからの声援を受け、笑顔で応える高梨の姿を見ることになるだろう。

<了>

(文・尾柴広紀/スポーツナビ)
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