“一貫性”欠く香川に向けられる懐疑の目=いまだ本領発揮できず、厳しい評価が続く

寺沢薫

約1カ月ぶりのフル出場も低調な出来に

スウォンジー戦でフル出場した香川(右)だが、低調な出来に終わった 【Getty Images】

 プレミアリーグ創設以来、年越し時点の成績(6位、勝ち点34)はクラブワースト。元日のプレミアリーグではトッテナム・ホットスパーに敗れ(1−2)、続くFAカップ3回戦でもスウォンジー・シティにホームでまさかの敗戦(1−2)。マンチェスター・ユナイテッドの凋落が止まらない。香川真司はスウォンジー戦で2014年初めての先発出場を果たした。だが、チーム全体に吹き寄せる逆風に抗(あらが)うことはできず、約1カ月ぶりにフル出場したこの試合の評価は厳しいものになった。「またしてもアピールのチャンスを逸したゲーム」とは地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』の評。各全国紙のレーティングも平均5〜6点で、中には『インデペンデント』のようにチームワーストの4点を付けた記者もいた。

 思えば、2013−14シーズン序盤、香川はほとんど出場機会を得られなかった。彼をドイツから誘い出した張本人であるアレックス・ファーガソン監督が勇退したこと、コンフェデレーションズカップやプレミア開幕直前の日本代表戦の影響による調整遅れ、序盤に大一番が続き、デイビット・モイズ新監督が経験豊富な選手を優先する現実的な采配を好んだことなど理由は多々あったが、リーグ初先発のチャンスは、9月28日の第6節ウェストブロムウィッチ戦まで待たなければならなかった。

 その間、27年にわたってクラブを率いた名将を失ったチームはスランプに苦しみ、現地メディアにも「香川はどこに行った?」(ガーディアン)、「今季のユナイテッドにはエリア近辺のイマジネーションが欠けている。香川はそれを提供できる選手だ」(デイリー・ミラー)など、起用を待望する意見も散見された。

少ないチャンスを生かしたCLでの活躍

 その背景には、もちろん2013年上半期、つまり2位に勝ち点11差をつけて悠々とリーグ優勝を決めた2012−13シーズン後半戦の活躍があった。ハットトリックを決め、「これぞユナイテッドが彼を獲得した理由」(マンチェスター・イブニング・ニュース)と激賞された3月のノーウィッチ・シティ戦を機に調子を一気に上げた。4月以降は多くのチャンスに絡んで存在感を示し、5月にはクラブ月間最優秀選手に輝き、いい形でシーズンを締めくくった。ビッグマッチでは先発機会をもらえず、本人も決して満足感は口にしなかった。それでも、シーズンを総括する各メディアのレーティングも総じて6〜7点とまずまずの評価がつき、「次のシーズンはもっと期待できる」(ザ・サン)など今後への期待も多く見られた。中には、香川の“敵陣でのパス成功率”や“枠内シュート率”といったデータの類似性を基に「ポール・スコールズの後継者はここにいる」(ラジオ局『talkSPORT』のWebサイト)と、最大級の高評価もあった。それだけに、2年目の香川に対する期待値はかなり高まっていたのだ。

 そんな中、香川が少ないチャンスを生かしたのはチャンピオンズリーグ(CL)の舞台だった。まずは10月23日、今季初のフル出場となったホームのレアル・ソシエダ戦(1−0勝)で、モイズ監督に「いい選手とは聞いていたが、私自身の目で本来のシンジを見たのは今夜が初めて」と言わしめた。続く11月5日、今度はアウエーでレアル・ソシエダ(0−0)と戦ったリターンレグでも91分間プレーし、再び賛辞を集めた。中でも『ガーディアン』は、パトリス・エヴラと香川が形成する左サイドのコンビを「エバートン時代のモイズ戦術を思わせる」とし、モイズが作り上げたエバートンの看板コンビ、レイトン・ベインズ&スティーヴン・ピーナールと重ね合わせた。「モイズは香川の特徴を受け入れるのに時間がかかったが、今夜は香川のベストゲームのひとつだった」とつづった。

 5−0で大勝した11月27日レバークーゼン戦で評価は確固たるものになる。ロビン・ファン・ペルシー欠場の試合でフル出場した香川は各メディアで絶賛された。「ウェイン・ルーニーの後ろで珍しく得意な“ホール(トップ下)”ポジションを与えられ、ドルトムント時代の輝きを見せた」(ガーディアン)、「中央でのチャンスを最大限に活用し、目に見えて活性化していた」(スカイスポーツ)、「とてもクリエーティブで見ていてワクワクする選手だ。そしてチャンスを作り出していた。最高だったね」(クラブOBのリー・シャープ)。CLの3試合で、モイズの“香川評”は確かに変化した。それは間違いない。この時期から、香川はプレミアリーグでも先発に名を連ねるようになってきた。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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