サッカーのピリオダイゼーションとは=海外で日本人が伝えるコンディショニング

中田徹

2週間ごとに練習の強度を変えていく

相良はけが人が少なければ練習の質があがり、サッカーの質も上がると考えている 【中田徹】

 フィテッセ同様、アイセルメールフォーヘルスも「終盤に強いチーム」と言われている。KNVBカップでプロチームを破った時も、ヘルモント戦は前半0−2のビハインドから後半に追いつき、延長戦の末、競り勝った。エメン戦も1−2からの逆転勝利だ。

「リーグ戦でも後半強いので、そこはチームとして自信をもってやっているところ。コンディションで差を作る、そこに監督は自信を持ってますね」(相良)

 そのコンディションのベースを相良が作っているのである。相良とアイセルメールフォーヘルスが採用しているのは『サッカーのピリオダイゼーション』というコンディショニング・トレーニングである。相良は大学卒業後、スポーツリハビリを勉強するためにオランダに来た。そこでサッカーの戦術トレーニングを交えながらコンディショニング・トレーニングをし、2週間ごとに練習の強度を強化、維持、休息とサイクルする『サッカーのピリオダイゼーション』という理論に出会った。

 相良はこの理論の提唱者であるレイモンド・フェルハイエンに師事し、4年前、このメソッドを実践するヤン・ザウトマン(現トゥエンテ・リザーブチーム監督)が監督を務めていたアイセルメールフォーヘルスのスタッフに加わった。

「昨季途中まではザウトマンと僕がどの日にどのような練習をするかプランニングし、6週間のサイクルを使って負荷を考えていた。僕の役割は『インディビジュアル(選手個々)・ピリオダイゼーション』と言うんですけど、チームのピリオダイゼーションに併せ、30歳前後の選手、けがをしやすい選手、すごく若い選手、今までけがをした選手を個別に負荷を変えることをやっていた。スプリントの本数、ゲーム形式の時間などを調整していくのが僕の役割だった」(相良)

 しかし、成績不振の責任をとってザウトマンはチームを去り、変わってクライスがやって来た。クライスは過去15年間、ドルトレヒト、フォーレンダムといったプロチームを指導してきた監督だ。

「難しかったのは、クライス監督はプロのチームで週5回トレーニングをしていた。選手もサッカー以外の時間はフリー。そこから突然、レベルがひとつ下がったアマチュアチームに来て、練習は週3回。監督としては物足りない感覚となって、ザウトマンの時と比べて練習強度が高くなり、時間も長くなった。しかし、1週間のうちに監督が変わっても、選手は変わらない。新しい練習に慣れるには時間がかかるから、最初は抑えないと、そのうちけが人が出てしまう――という話しを繰り返した。監督は話しをよく聞いてくれた。それで、今後もピリオダイゼーションを続けることになった」(相良)

 相良は練習の前に必ずクライス監督と話し合う。

「僕が監督室に入って行くでしょ。するとクライス監督はフェルハイエンの書いたピリオダイゼーションの本を読んでいるんですよ。僕が講習すれば早いんでしょうけど、監督は僕の言ったことをそのままやりたい訳じゃないと思う。もちろんアドバイスは求められます。しかし、じっくり本を読んでしっかり自分で考えて、自分のものにして、実践したいんでしょう」(相良)

監督が一番働きやすい状況を作る

 ところが、その人物に宿ったサッカーのDNAは、そう簡単には消えるものではない。クライス監督は現役時代、ユトレヒトの名プレイヤーとしてならした。ユトレヒトと言えば、ファイトを全面に押し出し戦うサッカーである。

「監督はやはりファイトを見せない選手は使いたくないタイプ。けがをしても痛みを我慢してプレーする選手が好き。練習前、僕が『この選手は今日、練習を休ませたい』と言うと、監督も『分かった』と言ってくれる。しかし、その後『やっぱり彼を練習に参加させたい。もし、けがをしたら俺が責任をとる』と言って来る。そうなると僕は困ってしまうけれど、最終的な決定権はやはり監督にある」(相良)

 だから試合前の話し合いでは、相良はデータを使って監督を理詰めで納得させないといけない。「昨季の記録をプリントアウトし、去年のこの時期はスプリントを何本、11対11は何分という記録を見せる。それに比べて今、監督の練習は本数が多かったり、長かったりする。『この選手の筋肉の張りや痛みが、去年よりこれだけ長いんですよね』と説明すると、『なるほどね』とどんどん納得してくれる」(相良)

 プロで15年という指導キャリアを持つクライス監督が、柔軟に相良のアドバイスを聞き、自分でもピリオダイゼーションを勉強し実践しようとする姿に、相良は「最近学んだのは、監督が一番働きやすい状況をスタッフとして作らないといけない。自分がやりたいことを押し通すのではない。僕も監督を見て、こっちも柔軟にならないといけないと思った。最終的にはチームが機能することが大事。本当に基本的なことですけど、そこが一番大切だと思います」としみじみ語る。

 相良の考えは、けが人が少なければ練習の質が上がり、それがサッカーの質も上げていく――というものだ。オランダ国内でフィテッセ、アヤックス、そしてアイセルメールフォーヘルスがリーグ戦の上位を占めるのは、選手の質や量もあるだろうが、コンディショニングの強化・維持によって彼らのサッカーの質もまた上がっていることの証左だろう。

<了>

相良浩平

 2004年から2009年までFCユトレヒト・ユースでトレーナーを務め、2010年からアイセルメールフォーヘルスでピリオダイゼーション・スペシャリストとして活動し、10−11シーズンのオランダ3部リーグ優勝に貢献。2011年からWorld Football Academy Japan(WFA Japan)の設立に努め、それ以降、フェルハイエン氏の日本で行うすべての「サッカーのピリオダイゼーション」セミナーで通訳を務める。詳細は下記URLにて。
http://www.worldfootballacademy.jp/

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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