真央と佐藤コーチ、究極の一瞬目指して=トリプルアクセル3本への青写真

野口美恵

どれほど高い壁かは2人にしか分からない

佐藤コーチと二人三脚で“究極の一瞬”を目指していく 【坂本清】

 そのグランプリファイナル。ショートでは、片足で着氷に成功したが、フリーは転倒、そして両足着氷となった。無茶な挑戦をしたのでは、という周囲の雰囲気を感じながら、浅田は言葉少なにこう言った。
「(フリーで)1本目で転んで、落ち着いて2発目に行こうと思ったけれど、大きな転倒をしてしまうと次が難しかった。1回目の転倒ってすごく大きくて、体力も奪われてしまいますし、まだまだ(2本を想定した)シミュレーションができていない中での挑戦だったので、練習が必要です」

 フリーで2本への挑戦について、佐藤コーチはこう戦略を明かした。
「決して競技会をないがしろにしている訳ではないが、挑戦してみないと分からない事もあるので今回は取りあえず挑戦してみるという判断をした。本人には、挑戦したい強い気持ちがある。それを取り上げるのはテンションにも影響するので、危険性とのバランスを考えた時に、とりあえず今は何が何でも挑戦する方向。2本入れると、エネルギーを使った、(演技後半が)どうなるかが読めない部分がある。慎重に検討しなければならないと私自身は考えている」

 そして佐藤コーチは、浅田を守るかのように、こう付け加えた。
「女性にとってのトリプルアクセルというのは能力的にとんでもなく難しいものだなというのを痛感させられた」
 トリプルアクセルは皆が思うよりも難しいのだ、というちょっと弱気の言い訳。彼女自身が決して口に出すことができない葛藤を、まるで代弁しているかのようだった。

 浅田が公式大会で初成功させたのは04年のジュニア時代。そこから10シーズン目の今なお跳んでいることが、驚異的なのだ。23歳のいま、計3本入れることがどれほど高い壁かは2人にしか分からない。意欲を支えにする浅田と、淡々と戦略を練る佐藤コーチ。2人は究極の一瞬を目指す。

<了>

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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