流経大柏、どん底からの再始動で最強証明=スタイル貫く難しさ乗り越えプレミア初V

平野貴也

目標を失った喪失感で「ピッチに行くと身が入らない」

大会MVPを受賞した主将のMF石田和希。どん底から建て直し、日本一の栄冠を獲得した 【平野貴也】

 高校選手権という入学の理由でもあった大きな目標を失った喪失感が、プレミアリーグで全国制覇を目指す気持ちを上回ってしまい、リーグで首位に立っていながらも、選手権敗退後は練習に身が入らないという現象に悩まされた。

 MF小泉慶(新潟入団内定)の話によれば、練習中にふざけ出す選手が現れて周囲も止めることのない引退ムードが漂っていたという。主将のMF石田和希は「選手権が終わった後は、正直に言うと自分自身も下を向いてしまっていた。無理やりに気持ちを整理して『明日からしっかりやろう』と思っても、ピッチに行くと身が入らない。気持ちでは分かっていても、体が動かない状態が続いていた」と打ち明けた。

中心選手の練習ボイコットで話し合いの場を持つ

 選手権敗退とライバルに3敗というダブルショックから立ち直ったのは、ある出来事がきっかけだった。

 練習中、名古屋入団が内定しているMF青木亮太がぬるい空気に耐えかねてキレた。突然プレーを止めてクラブハウスに引き上げてしまったのだ。「あんなことをしたのは初めて。本当はやっちゃいけないことをやってしまった。でも、日本一を取れるチャンスがあるのにもう一度頑張ろうとしないのは違うんじゃないかと思った」という青木の練習ボイコットに対し、チームメートが「どうしたんだ、何を怒っているんだ」と問いかける形で話し合いが始まった。

 DF今津佑太は「気持ちを切り替えるのは大変だったけど、何をしに流経に来たのかと言えば、日本一になるため。森永や石田、青木が中心になって盛り上げてくれて、その気持ちを再認識できた」と振り返った。

不完全な状態でも意地を見せ、価値ある優勝をつかむ

12番のユニフォームに着替えてセレモニーに臨んだ時田。苦しい中での優勝で喜びを爆発させた 【平野貴也】

 その時から勝利の意欲を取り戻すとともに、本来のスタイルへの回帰が始まったが、一度壊れたものは、なかなか戻らなかった。リーグ戦は2戦連続引き分けで自力優勝のチャンスを最終節まで引き延ばしてしまった。最終節で勝利を収めてイースト優勝を果たしたが、チャンピオンシップでも完全な状態ではなかった。
 本田監督はチームの雰囲気を見て試合前日にオール3年生で戦うことを決断。前半に前線へ飛び出した石田のゴールで先制したが、素晴らしい粘りを見せたウエスト王者・ヴィッセル神戸U−18に試合終了間際のアディショナルタイムで追いつかれた。

 しかし「失点するタイミングは非常に悪かったが、笑顔で延長戦を戦えた。もう本当に最後だから笑顔でやろうと話していた。それがいい方向に行って良かった」(DF時田和輝)という流経大柏は、最後まで決着がつかなかった試合をPK戦5−4で勝利。

 ようやく、最後の1冠にたどり着いた。森永は「元に戻すのは難しかった。もっときれいにやりたかったけど、つなごうという意思は見られたと思う。ずっとチームを引っ張って来た石田が決めて勝てて良かった」と紅潮させた顔で話した。

 チーム全員が喜びを爆発させる様に、覆っていた苦しみの深さが感じられた。時田は12番のユニフォームに着替えて表彰式に臨んで、スタンドにアピールした。普段は「普通に勝つのではなく圧勝したい」と話す本田監督も「今年は本当に最後まで引っ張るけど、感動させてもらった」と賛辞を惜しまなかった。高校勢のプレミアリーグ制覇は、初の快挙。同時に、これまで高校のチームにとっては、高校選手権が最後に燃え尽きる場所だったが「選手権で終わらず、日本一を手に入れた」初めての高校チーム誕生でもあった。苦難を乗り越えて最強を証明した流経大柏、価値ある初優勝だった。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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