流経大柏、どん底からの再始動で最強証明=スタイル貫く難しさ乗り越えプレミア初V

平野貴也

シーズン開幕前から評価の高かった流経大柏

高円宮杯U−18チャンピオンシップを高校チームとして始めて制した流経大柏 【平野貴也】

『今年の流経は強い』。今の3年生が2年生になったばかりの頃、偶然その予兆を目の当たりにした。
 2012年2月、都内で行われた国際親善ユースサッカー大会『イギョラカップ』に出場していた流通経済大学付属柏高(流経大柏)は、新3年生が別の大会に参加していたため、新2年生でメンバーを組んでいた。しかし、小気味よいショートパスの攻撃で次々にチャンスを作り、新3年生主体の他チームを圧倒して優勝を果たしている。

 イギョラカップのような招待大会は、夏や冬の長期休暇に全国各地で行われており、指導者や選手にとっての情報交換の場にもなっている。

 各地での大会を通じて『来年の流経はヤバイらしい』という評判は、高校サッカーの指導者の間で瞬く間に広がった。そんな背景があり、今季のシーズン開幕前から流経大柏の評判は高かった。

三冠目指すも高校総体で市立船橋の壁破れず

 夏の高校総体、冬の高校選手権、そして通年で行われるプレミアリーグのイースト優勝とチャンピオンシップ制覇。チームが3大タイトルの完全制覇を目標に掲げたのも自然な成り行きだった。

 実際に、夏までは評判に違わぬ成績を挙げてみせた。プレミアリーグは前期の9試合を終えて8勝1敗。しかも34得点(1試合平均3点以上!)5失点という内容で驚異的な攻撃力を見せつけた。

 しかし、1年間を通して同じスタイルを貫いて勝ち切るというのは、いくら強いチームでも易々とはいかないものだ。夏の高校総体の千葉県予選決勝では、県内最大のライバルである市立船橋高に逆転負け(2−3)。2位以上で全国大会には進めたため、一度の敗戦は気にしなかったが、全国大会の決勝戦で再び敗れて(2−4)歯車が狂い始めた。

選手権予選決勝でも敗れ、チームは再び狂う

 サッカー関係者はよく「チームは生き物だ」と言う。流経大柏の本田裕一郎監督が「全国大会準優勝でも、県内のライバルに負けると『市船に負けたのか』という気持ちしか残らない」と話したように、大一番の敗戦でチームは自信を失い始めた。

 高校総体を終えた後に再開したプレミアリーグでは2連勝のあと3連敗。152センチと小柄だが技術と判断で攻撃の起点となるFW森永卓は「3連敗をして、これはヤバイなと思った。連敗を止めた三菱養和ユース戦では、メンバーが半分以上変わって、ショートパスじゃなくてロングパスを多く蹴る内容に変更して結果が出た(5−1で勝利)。そのときに、『これでいけるんじゃないか』という気持ちをみんなが心のどこかに持ち始めて、丁寧にパスをつなぐシーンがなくなっていった。そんな状況のまま、選手権の予選に入ってしまった。僕たちの代は1年生のときからショートパス中心のスタイル。1年生のとき、3年生の選手権の試合を見てエノさん(榎本雅大コーチ)に『この(絶対にミスが許されない、負けられない)雰囲気の中でできるか』と言われていて、自分たちはできると言っていた。でも、いざ自分たちの代になると怖かったですね」と、チームに満ち溢れていた自信がみるみるうちになくなっていった様を証言した。

 高校選手権の千葉県予選では、決勝でまたも市立船橋に敗退(0−1)。ショートパスのスタイルで生きる森永に出場の機会はなく、ロングパスとトリプルマンマークという市船対策を徹底して臨んだが、報われなかった。
 本田監督は「前の2試合(準々決勝、準決勝)の内容が悪かったし、市立船橋には2回負けたので、何かを変えないといけなかった。本来のスタイルを貫き通していたらどうだっただろうという思いはあるが、仕方がない」と苦しい胸のうちを明かしたが、春先から相手チームや観戦者をうならせてきたチームの姿は、そこにはなかった。目指した3冠のうち、2つを逃し、この敗戦でチームは再び狂わされた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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