画期的新戦術を生んだシンプル思考法=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第2回
画期的な新戦術が生み出された背景には、眞鍋流のシンプル思考法があった 【坂本清】
11月に行われたワールドグランドチャンピオンズカップ2013(グラチャン)では、全日本女子を銅メダルに導いた。しかし、手にしたのはメダルだけではない。進化を果たすべく、同時に新戦術を実践の場で試していた。
なぜ今、新しい戦術が必要だったのか。挑戦や変化が求められるときに心がけるべきこととは何か。眞鍋監督にその背景を聞くと、チームをワンステップ上のレベルへと引き上げるためのユニークな考え方が見えてきた。
身体能力で劣る日本人選手が勝つ方法を
この大会でわれわれは新戦術にチャレンジしました。通常、コートに2人いるミドルブロッカー(MB)を1人に減らし、代わりにウイングスパイカーを増やして4人体制にしました。ミドルブロッカーは攻撃もしますが、ブロックの要となる役割もあります。攻撃の要であるウイングスパイカーを増やすことで相手のブロックを分散させ、得点率がアップすると考えたのです。戦術名は「MB1」。
私が新しい戦術にチャレンジしなければいけないと思ったのは、2年前にさかのぼります。11年のワールドカップで4位になり、その時点で翌年のロンドン五輪の切符をつかめませんでした。その悔しさがいつまでたっても脳裏から離れず、何とかして世界のトップに競り勝つ方法はないかと考え、ずっと温存させていたのです。身長も身体能力も勝る外国人選手に日本人選手が勝つにはどうすればいいのか。どの国もやらない画期的な戦術が必要だと思わざるを得ませんでした。
固定観念を捨てて発想の幅を広げる
さらに、思考をできるだけ削ぎ落とし、シンプルに考えるようにします。例えば、試合で勝つための“そもそも論”を考える。当たり前ですが、バレーボールは25点を先取したチームが勝ちです。さらに乱暴なことを言うと、点数を多く取れる6人の選手を入れたチームが勝ちますよね。
ではどうすればいいか。過去5年分のデータを見たところ、得点力が低いミドルブロッカーよりも、得点力が高いウイングスパイカーを増やした方が、得点率はアップするという視点が見えてきました。「ミドルブロッカーの得点力不足」というネガティブ要因を、ウイングスパイカーの増員でポジティブ要因に変換すればいいのです。あらためて考えると、まあ、自分でもよくこんな発想をしたなと思います(笑)。海外チームは絶対にやりません。ミドルブロッカーはしっかり点数を稼いでいますから。
モチベーターとして選手の頑張りを引き出す
グラチャンでは銅メダルを獲得。新戦術をチームに浸透させるため、眞鍋監督はモチベーターに徹した 【坂本清】
予選に集中させるために、新戦術を取り入れることを選手に告げたのは、9月のアジア最終予選が終わった直後。グラチャンまで1カ月ちょっとしかありませんでした。そんな短期間で、新しいフォーメーションや戦術をチームに浸透させなければいけない。そこは選手に頑張ってもらうしかありません。そのために私は、彼女らのベクトルをそろえ、やる気を高めるためのモチベーターに徹する必要がありました。コーチ陣としっかり準備しながら練習に入ったのです。