J史上4クラブ目の連覇を達成した広島=「ブレない」伝統を強化する改革の結実

中野和也

パスをつなぐ攻撃の形は長年培ってきた真骨頂

先制点を決めた石原(左)と佐藤寿人 【写真は共同】

 後半、鹿島にトドメを刺した石原の2点目は、まさに伝統芸。いったい何本のパスをつないだか。一度は鹿島のペナルティエリアの近くまで攻め込むも、相手の集中力が途切れないと見るや、おもむろにバックパス。GK西川周作がボールをコントロールしても決して大きく蹴りださず、パスをつないでいく。点を取らなければ勝てない鹿島が食いついてきたところでサイドチェンジ。逆サイドのファン・ソッコが完全にフリーとなったのだ。

 この攻撃の形は、広島が長年培ってきた真骨頂。森保監督がそこに手を付けるどころか、選手たちの躍動を楽しんでいるかに見える。その中心となる高萩に指揮官が伝えているのは「どんなアイディアでトライしてもいい。ただ、やるのなら決めろ」。意気に感じたファンタジスタは、昨年も今年もチーム最多のアシストを記録している。

「ブレない」森保監督のメソッド

 その高萩はシーズン前、「昨年と同じレベルだと勝てなくなる」と危機感を提示していた。実際、広島と対戦するチームは、それまで自分たちのベースとなったコンセプトを捨て、徹底した対策を施してくるようになった。それは、前述の名古屋や浦和のような実力者ですら「広島システム」を構築。昨年のような自在な攻撃を成果に結びつけることは難しくなった。

 だからこそ、改革は必要。だが、だからといって、急進的に自分たちのサッカーそのものを変えてしまえば、混乱はさらに急となる。それは相手の思うつぼであり、崩壊の序章だ。

「監督はブレない」。
多くの選手たちから聞こえてきたこの言葉こそ、広島が連覇を果たした最大の要因である。前述のように「ボールを奪う」意識を高めるなど、細かな部分で改善は施してきた。だが、ベースは揺るがない。革新を仕掛けつつ伝統を確実に保持し、チーム全体の総合力を高める。それが、森保監督のメソッドだ。

 選手たちはいつしか、対策にも慌てなくなった。「臨機応変に対処できるようになった」とチームの戦術的リーダーである森崎和も実感する。着実に、積み木を積み重ねるようにして創り上げた成長の過程こそ、広島が連覇を果たせた最大の要因だろう。

広島に見る強化手順の確かさ

 横浜FMの中村俊輔のような特別な存在はいない。佐藤寿人という絶対的なエース、西川周作という守護神、レギュラーの11人は誰もが代表レベルの実力を持っている広島だが、その存在が戦術となるほどの選手はいない。即戦力補強は岡本知剛のレンタルバックくらい。

 ただでさえ長い移動距離は、ACLのためにさらに長くなった。それでも、広島は連覇を果たした。もちろん、運もある。しかし、その運を引き寄せたのは、彼ら自身の頑張りである。単純な実績の足し算や予算総額の増加だけで、チームの強化は成し遂げられない。

 そこに必要なのは強固な理念と改革への正当性、そして手順の確かさ。J史上4クラブ目となった広島の偉業は、「強化とは何か」という深遠なテーマをサッカー界に投げつけたと言っていい。

<了>

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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