J史上4クラブ目の連覇を達成した広島=「ブレない」伝統を強化する改革の結実
優勝を決める先制点は「機能性とアイディア」の賜物
リーグ2連覇を達成した森保監督(左)と絶対的エースの佐藤寿人 【写真は共同】
「続けること」と「変えること」。このどちらかだけでは、決して栄光はつかめない。「続ける」だけでは創造性は乏しくなり、研究されると対応できない。「変える」ばかりでは蓄積がなく、立ち戻る場所を見失う。
予算総額でいえばJ1平均を下回る広島が、V川崎(現東京V)・鹿島・横浜FMしか達成していないJリーグ連覇を達成したのは、「続ける」「変える」の見事なバランスの成果だと言えるだろう。
例えば、優勝を決めた鹿島戦の得点パターンを見てみよう。34分、鹿島のスローインが小笠原満男に渡る。しかし、このボールが少し流れた。そこを森崎和幸が狙い、あっという間にボールを奪い取る。そこから高萩洋次郎の美しいアウトサイドキックで出されたスルーパスが、佐藤寿人が斜めに走ることによってできたスペースに通され、石原直樹が走り込んでのループシュート。勝利の鍵を握る先制点は広島のセールスポイントである前線3人の美しい「機能性とアイディア」によって生まれた。その起点は森崎和の高い位置でのボール奪取だった。
この「高い位置でボールを奪う守備」は、森保一監督が就任してからチームに徹底させてきた「意識」である。「攻撃のための守備」を掲げ、「高い位置でボールを取れば、その後の攻撃が楽になるぞ」という言い方で、指揮官は攻撃好きな選手たちのモチベーションを上げてきた。
彼が監督就任以来、言い続けてきたこの意識が、2年の歳月の中でチームの空気となって熟成。それが、連覇を決める試合での先制点として結実したと言っていい。
森保監督が「伝統と革新」を保ちチームを進化させる
「広島のブロックを崩すのは難しい。それは私が新潟のコーチとして広島の分析を行っていた時から、感じていたことです」。監督就任時、森保一自身が語った言葉である。
だが、現役時代は「ボールハントの達人」として名をなした森保監督には、ブロックを作って相手を誘い込んでボールを奪うやり方だけでは、いずれ行き詰まることが見えていた。
第21節・名古屋戦。ドラガン・ストイコビッチ監督は、広島が待っている「縦パス」を入れない戦術を採用。ずっと名古屋の最終ラインでパスが回り続け、広島のブロックの外でばかりボールが動くという異様な状況になった。
チームとして進化するには、ボールを奪う位置をもっと高くしたい。だが、ここで森保監督が見せたやり方こそ、「伝統と革新」のバランスである。あくまで、広島の守備の基本は「ブロック形成」。そこはブレない。自分の理想はあるが、そこに向けて急進的にチームを変えることはない。
ブロックのベースを保ち「奪いに行く」意識を植え付ける
ただ、そこからが森保一の真骨頂だ。ベースとなるブロック形成の形に立ち戻り、守備の安定を取り戻す一方で、練習・試合の中での意識付けは続けた。広島の伝統を踏襲しつつ、前でボールを奪うことの重要性も忘れさせなかった。そのことが、佐藤寿人をスタートとする全員守備の構築につながる副産物も生む。
Jリーグ最少失点、今季15度に及ぶ完封試合は「DFだけでなく、FW・MF、全ての選手たちが貢献した記録」と水本裕貴は胸を張る。決して守備ラインは高いとは言えないし、ボールを刈り取るというイメージでもない。だが、以前よりも明確に、「奪いに行く」という姿勢は見られるようになった。
鹿島戦での「ボール奪取→ショートカウンター」という流れは、チームどうこうではなく森崎和の判断と決断が優れているからこそ生まれたビッグプレー。だが、自然とチームとしての意識が「前へ」と高まっている状況なくして、このプレーは生まれない。
急速な効果が見られる薬は、副作用もきつい。一方で漢方などすぐに効き目が出るわけではない薬は、続けて服用することでジワリジワリと効能が現れる。森保の手法は、まさに後者だろう。時間をかけて浸透させたことで、ブロック形成とボールを奪いにいく守備とのバランスが改善された広島は、そう簡単には崩れない。