徳島ヴォルティスが目指す悲願のJ1昇格=悔しさを知るメンバーと新戦力の融合
2年前の悔しさを知る5人が引っ張る
プレーオフ準決勝は引き分けに終わるも決勝に勝ち進んだ徳島。四国初のJ1にあと1勝に迫っている 【写真は共同】
千葉戦での先制点は、津田知宏の突破で得たPKをドウグラスが決めるという、まさに2年前の岡山戦でも先発した2トップが呼び込んだ形だった。さらに、津田に絶妙なスルーパスを通したのは濱田武。彼も11年の岡山戦ではメンバー入りし、悔しさを味わった1人だ。後半、千葉の猛攻をしのぐ守備の中心にいたのは橋内優也であり、途中出場で中盤を締めたのは斎藤大介。「あんなに悔しかったのはサッカー人生で初めて」(津田)という2年前を知る5人が引っ張る形で、徳島は見事、プレーオフ初出場で決勝進出を決めた。ちなみに、彼らと共にJ1昇格を目指して戦った、現J1・セレッソ大阪の柿谷曜一朗もプレーオフ準決勝を観戦に訪れ、試合後は「(決勝進出が)決まって良かったです」と元チームメートを祝福した。
小林監督のサッカーが浸透
山形を率いてJ1で3年間指揮を執っている間にJ2も進化、今ではひと癖もふた癖もある監督がそろう一筋縄ではいかないリーグとなった。それぞれの監督のスタイルが各チームに浸透し、簡単に勝てる相手など1つもない。そんなJ2で最後まで苦しみ抜いた昨季は、監督自身、シーズン終了後に、「これまでで一番悔しいシーズンになった」とほぞを噛んだ。
「絶対勝つ」と語気を強めて迎えた今季。オフには高崎寛之、大崎淳矢、柴崎晃誠、千代反田充、松井謙弥とセンターラインを補強し、スタッフも一新。山形で共に戦った小林監督の懐刀である長島裕明コーチもFC東京から呼び寄せた。大きな期待を背に走り出した2年目の小林徳島だが、シーズン前半戦は結果が出なかった。序盤は、昨季終盤から採用していた「3−4−2−1」で戦うも、サイドのスペースが空き、スライドやマークの受け渡しといった守備での連係に苦しみ、チームが安定せず、勝ったり負けたりを繰り返した。その後、ウィングバックでプレーする太田圭輔や衛藤裕といった選手が次々と負傷離脱すると、小林監督は第14節(5月12日)の水戸ホーリーホック戦からは戦い慣れた「4−4−2」への布陣変更を決断する。この変更でやり方がハッキリしたのが守備だ。2トップのドウグラスや津田も前線からの守備を怠らず、「守備が持ち味」と語る大崎などサイドハーフも運動量豊富に上下動、パスコースを限定するプレスをかけた。ボランチでは、C大阪時代は守備に難もあった濱田が今では泥臭いプレーも厭わない。「(昔に比べて)走っているだけ(笑)」(濱田)と話すが、「今季最も伸びた選手」と小林監督も高く評価。本来持っている高い技術がより輝き、攻守に貢献できるボランチとして今なお成長過程にある。
補強の成功と既存戦力の成長
10年途中に徳島へ加入し、過去3年間はいずれも4得点止まりだったが、今季はそれを大きく上回る12点を挙げ、決定率も飛躍的に向上した。また、大分トリニータU−18時代から高い能力を評価されながらも伸び悩んでいた感もあった福元洋平も今季成長した一人。持ち前の身体能力の高さに加え、判断力に磨きがかかり、センターバック(CB)としての安定感が増した。「体の使い方やステップの踏み方など、伸二さんはその都度、指摘してくれます。常に隙を探してくれる。気付かされる部分が多いですね」(福元)と語るように、小林監督は練習から細かい指示を各選手に送り、様々な方法を提示する。
「今の(プレー)はどういう意図?」と尋ね、その後、選手の答えを聞いた後、「その判断も良かったけど、こっちもあるぞ」と視野を広げる。ドウグラスにしても、ボールの受け方から持ち出し方、バイタルエリアでのプレーに関して、小林監督からさまざまなアドバイスを受けていた。「裏への抜け方やボールの受け方などは細かく言われます。試合でできたかできないか、常に見られているし、小林監督の指導で成長できている部分も大きいと思います」(ドウグラス)と話す。