日本人に世界で通用するFWはいない=セルビア人記者が見た日本代表戦

W杯出場を逃した自国代表への期待感はゼロ

ストライカー不足が否めない日本代表。絶対的FWがいないなら、メンバーを固定すべき 【Getty Images】

 終わってみれば実に奇妙な試合であった。セルビア代表はベストメンバーとは程遠いチームで、アレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・シティ/イングランド)、ネヴェン・スボティッチ(ドルトムント/ドイツ)、リュボミール・フェイサ、フィリップ・ジュリチッチ、ラザル・マルコビッチ(以上ベンフィカ/ポルトガル)、アレクサンダル・ミトロビッチ(アンデルレヒト/ベルギー)といった主力選手を欠いていた。
 また、結果論ではあるが、およそ1カ月前にワールドカップ(W杯)・ブラジル大会出場の夢が絶たれたセルビアのシニシャ・ミハイロビッチ監督や選手たちにとって、11日(現地時間)の日本代表との親善試合に価値を見いだすことは非常に困難であった。というのも、仮にこの日の時点でW杯出場の可能性が残されていれば、15日の予選最終戦マケドニア戦に万全の態勢で臨むための調整試合にあてるはずだったからだ。

 だが、その思惑は崩れ去った。「会場の雰囲気が決して良かったとは思わない」と同監督が話したように、スタジアムに訪れた観客はサッカーというよりも、演劇を見に来たようなどこか和やかな雰囲気を作り上げていた。いや、どちらかといえば「ゆるい」と表現した方が的確かもしれない。いずれにしろ自国代表への期待感はゼロであった。

人々の記憶に残らない引退試合

 試合の話をしよう。日本代表の前半の動きは良かった。ミハイロビッチ監督も「試合内容は全体を通して日本が勝っていた」と評価していたが、終わってみればセルビアの勝利。大した見どころも作り出せないまま、それでも少ないチャンスを生かしたセルビアが2−0で「完勝」した形となった。
 だが、この日を最後に現役引退するスタンコビッチには悪いが、人々の記憶に残らない試合であったことは間違いない。(そもそも彼の引退試合は、かつて所属していたレッドスターの本拠地マラカナ(レッドスター・スタジアム)で行われるべきだったのでは?)

 すでにW杯出場の切符を手にしている日本代表にとって、アウエーでのセルビア戦は自身の実力を試す絶好の機会だった。今回の試合に敗れはしたが、アルベルト・ザッケローニ監督の指揮のもとでチームの質は日々向上しているように見える。確かにW杯出場に値するチームである。日本の良さは、以前から知られている戦う姿勢、アジリティー(敏捷性)、規律の良さに加え、今では、組織力、戦術理解力、個人能力の高さも大きな武器となっている。

 守備は世界レベルに近づいてきたし、一対一で当たり負けないフィジカルの強さもある。特に内田篤人と長友佑都という世界屈指の両サイドバックは日本の強みだ。中盤の長谷部誠はセルビア戦では目立ったミスもなかった。本田圭佑は屈強な体を持ち、創造的なプレーを得意とする。日本のMF陣はゲームをコントロールして、試合の主導権を握るすべを知っている。ゴールへ到達するためのイメージも熟知している。31分の香川真司、57分の遠藤保仁のシュート場面などは、まさにその表れだ。

香川の復調がない限り日本は苦しい

 一方で、このチームには深刻な問題が存在するようだ。まずは香川のコンディションである。かつてドイツのドルトムントでプレーしていた時の輝きが今では全く見られなくなった。現在はマンチェスター・ユナイテッドの厚い選手層に埋もれて消化不良の毎日が続いている。セルビア戦でのミスの連発は試合勘を失っている証拠だ。彼が復調する日が訪れない限り、日本は苦労し続けるだろう。

 ただ、その香川の問題以上にザッケローニ監督を悩ませているのが、絶対的ストライカーの欠如である。つまり、このチームには世界を相手に個の力でゴールを奪えるFWがいないのだ。日本にファン・ペルシやイブラヒモビッチのような選手はいない。もちろんW杯開催までの8カ月間で世界に通用する選手を育て上げることも不可能だ。
 ザッケローニ監督は、数人のFWを招集しては試すことを繰り返しているが、そろそろその考えを放棄するべきである。日本人には世界で通用するFWはいないのだ。ならば、いい加減にお試し期間を終了させて、1人か2人のFWを辛抱強く使い続ける方が得策である。そういった中でFWとの連携が強化され、選手たちに自信が芽生え、チーム全体で得点を奪えるようになる。現時点で柿谷曜一朗がFWの第一候補であるならば、今後もプレーさせなければいけない。

日本の持つポテンシャルで再び世界を驚かせるか?

 日本人は謙虚かつ高慢である。W杯出場が悲願から現実へと変わるやいなや、彼らはベスト4やそれ以上の結果を求めるようになった。目標達成のためには、自身に敢えて厳しい課題を課す方法は知られている。だから高望みすることは大いに結構だ。
 ただ、本当にW杯でベスト4以上を狙えるチームなのか。セルビア戦を振り返ると、現時点では「肉でも魚でもない」(どっちつかず)と言わざるを得ない。今回の試合に苦戦しているようなら、どちらかといえば否定的な意味合いの方が強いだろう。

 6月に行われたコンフェデレーションズカップのブラジル戦後、ザッケローニ監督は「(チームは)50パーセントしかポテンシャルを出していない」と興味深い発言をした。もしこの言葉を信じるなら、つまりW杯までの残り期間で最大限の力を発揮できるなら、日本代表は十分にベスト4以上を狙えるチームになるだろう。もしかしたらこのような期待感を寄せる私は愚かかもしれない。なぜなら、他の外国人記者は日本のW杯での目標を聞くと非現実的だと鼻で笑っているからだ。
 ただ、私は2010年のW杯・南アフリカ大会で見せた驚きを今でも鮮明に覚えている。日本代表が前回大会同様に世界を驚かす国であっていい。彼らの秘めたるポテンシャルは、ザッケローニ監督同様、私も否定しない。

<了>
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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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