狩野舞子、宮下遥の現在地。=そして全日本セッターの行方は…?

米虫紀子

司令塔争いは新たな展開へ

8月のワールドグランプリで国際大会デビューした宮下。しかし彼女もまだ竹下の後継者候補の1人にすぎない 【坂本清】

 ただ、ワールドグランプリや世界選手権アジア最終予選で注目を集めた宮下も、全日本の眞鍋政義監督の中では、まだあくまでも竹下の後継者候補の1人にすぎない。

 国体後も宮下は全日本には戻らず、11月12日に開幕するグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)には出場しない予定だ。
 かつて全日本の司令塔を務めた久光製薬の中田監督は、「セッターが固定されないのはどうなのか。宮下を育てるのであれば、常に全日本に置いておかなければ。全日本は岡山のバレーとは違うし、セッターはトスを上げられればいいという問題じゃなく、信頼関係が大事。特に彼女はチームで一番若いわけですから、思い通りに先輩たちを動かすことはそう簡単なことではありません。抜けたり入ったりしていては、チームを作るのに時間がかかるんじゃないでしょうか」と危惧する。

 しかし眞鍋監督の考えはこうだ。
「セッターはバレーにおいてウエイトのかかるポジション。だから、来年の世界選手権(イタリア)、再来年のワールドカップ(日本)、2016年のオリンピック(ブラジル)に向けて、今年は、誰がいいのかを見極める年です」

 今年は5〜6月のヨーロッパ遠征に藤田夏未(トヨタ車体)、松浦寛子(PFU)、その後のワールドグランプリ、世界選手権予選、アジア選手権に宮下、橋本直子(JT)を起用。そして、グラチャンに向けては、ロンドン五輪銅メダルメンバーの中道瞳(東レ)と、当初今年度の登録メンバーに入っていなかった永松幸乃(日立)を招集した。U−23世界選手権(メキシコ)に出場している藤田を再び呼ぶ可能性もあるという。

 他に13/14Vリーグで活躍著しいセッターがいれば来年招集することもあると眞鍋監督は言うが、今年チャンスを与えられた6人の中から、来年以降絞り込んでいく公算が大きい。

ロンドン経験者、中道の自覚

 10月5日に姫路市で行われた全日本代表の紅白戦では、中道と同じチームになったエースの木村沙織(ガラタサライ)が、息の合ったコンビで、ワールドグランプリの頃とはまったく違うドスンという重いスパイク音を響かせていた。
「東レでもずっと一緒にやっていたミチさんのトスを打てたのは本当に久しぶりだったので、うれしかったです。これまではロンドンを経験していたのが3人だけ(木村、江畑幸子/日立、新鍋理沙/久光製薬)だったけど、今回からミチさんとリオ(迫田さおり/東レ)の2人が増えたことは大きい。私はキャプテン1年目で、なかなかチームをまとめられなかったり、下の子とのコミュニケーションが行き届かないところがあるので、そういう面でも経験豊富なミチさんが来てくれたことは心強いです」と木村は言う。

 その中道は、「私はテンさん(竹下)からいろんなことを学んだので、それを次の子たちに伝えていく役割がある。例えば日の丸を背負う責任の重さや、立ち居振る舞い、練習に取り組む姿やスパイカーとのコミュニケーションの取り方、試合への入り方。テンさんがいるからチームが締まっていた。自分がそういう存在にならなきゃいけないと思っています」と、意識の面で他のセッターとは一線を画する。

 練習中も、中道がコートに入ると、守備から攻撃への流れやスパイカーの動きがスムーズだ。ロンドン五輪を経験し、28歳と円熟期を迎えた中道のトスの安定感、周りに与える安心感は、頭一つ抜けている。
 とはいえ、それは現時点での差だ。16年のリオデジャネイロ五輪から逆算し、7年後の東京五輪につなげることも見据えて、それぞれのセッターの伸びしろやチーム作りを計算した上で、眞鍋監督がどのような決断を下すのか。司令塔争いからは当分目が離せそうにない。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント