酷暑を乗り切った甲府独自の調整法=チームを支えたフィジカルコーチの存在

鈴木智之

キーワードは「スパイラル・コンディショニング」

甲府のコンディショニングを支えたトレーナーの谷真一郎 【イースリー】

 今夏、歴代観測史上5位となる最高気温40.7度を記録した山梨県甲府市。日本屈指の暑さを誇る都市に拠点を置くヴァンフォーレ甲府は、気温の上昇とともに順位を上げてきた。8月以降の9試合で積みあげた勝ち点は15。4勝3分2敗と猛烈な追い上げを見せ、J2降格圏内の脱出に成功した(15位/10月3日時点)

 甲府の夏は、「酷暑(こくしょ)」という表現がふさわしい。盆地特有の、息をするにも苦しいほどの熱気がまとわりつき、暴力的な日差しが降り注ぐ。サッカーをするには厳しい環境下において、ヴァンフォーレ甲府の選手たちはいかにしてコンディションを上げ、厳しい夏を乗り切ったのか。その理由をたずねると、フィジカルコーチの谷真一郎は「スパイラル・コンディショニング」というキーワードをあげた。

 「スパイラル・コンディショニング」とは、谷が推奨する独自の調整法である。通常、シーズンが始まる前のキャンプ期(1〜2月)において、多くのチームはボールを使わずに強度の低い有酸素運動から入り、ミドルパワー(乳酸系の運動強度)、ハイパワー(アジリティ、クイックネス等)とトレーニング強度を上げていき、ある程度身体ができたところでボールを使ったトレーニングに移行する。

 しかし、谷は「サッカーをすることで、サッカーをうまくする」という考え方のもと、監督である城福浩に「スパイラル・コンディショニング」でトレーニングを行うことを提案した。

 谷は「スパイラル・コンディショニング」のメリットをこう語る。「通常はフィジカルとサッカーのトレーニングを切り離して行うのですが、スパイラル・コンディショニングはシーズンインの時期から、強度の低いボールトレーニングをフィジカルトレーニングと並行して行います。これにより、戦術とテクニック、フィジカルが螺旋階段(スパイラル)のように絡み合って向上するので、チーム作りにかける時間を短くすることができるのです」

 今シーズンのヴァンフォーレはJ1昇格初年度ながら、開幕10試合を3勝5分2敗の好成績で乗り切り、素晴らしいスタートを切った。スパイラル・コンディショニングでフィジカルと戦術を同時にトレーニングした成果と言っていいだろう。しかし、5月の連休明けから7月の終わりにかけて8連敗を喫するという苦しい時期が続く。この間、チームは2人の外国人選手に見切りをつけ、新たにパトリックとジウシーニョを獲得。システムも従来の4−4−2から、パトリックを1トップに置く5−4−1にチェンジしたことで、新たな戦い方を構築する必要性に迫られていた。しかし、そこに立ちはだかったのが、暑さという厄介な敵だった。

コンディションを第一に考えて午前中に練習

 今夏、甲府は記録的な猛暑で、8月上旬には40度を超える日が続いた。トレーニングをするにも、熱中症の危険があり、長時間グラウンドに立つことはできない。それでも、チームの軸となる外国籍選手が加入したことで、戦術のすり合わせを始めとする、ピッチ内のミッションは山積みだった。

 そこで、城福監督とフィジカルコーチの谷は「トレーニングの質」と「選手のコンディション」に最大の配慮を施すことで、マイナス要素をプラスに変えていった。まず、トレーニングの質を高めるために、練習は午前9時半から、長くても最大1時間半に設定。「短時間で集中したトレーニングをしよう」と選手たちに伝えた。谷が狙いを説明する。

「夏場は、日差しの陰る夕方からトレーニングをする考えもありますが、生活のリズムを保つためにも、午前中の練習を継続しています。もし夕方からのトレーニングにすると、寝る時間も起きる時間も遅くなり、食事の回数も減ります。コンディションを第一に考えるために、朝早く起きて朝食をとり、午前中に集中してトレーニングをし、昼食をとって休憩。夜は早めに寝て、翌日の練習に備えるというサイクルを作りたかった。グラウンドでのトレーニングと同じぐらい、食事と休息は重要です。同じ8時間の睡眠にしても、22時から6時までの睡眠と、25時から9時まででは質が違います。良質の睡眠をとるためにも、寝る時間を早くするように、午前9時半からの練習にしました」

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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