宮市にとって正念場となる1カ月=「若手の宝庫」から抜け出す可能性

寺沢薫

最大のライバルは18歳のグナブリー

宮市も期待はされているが、グナブリー(写真)をはじめライバルは多い 【写真:アフロ】

 宮市個人に対する記述があったのは、ロンドンの地下鉄で無料に配られていることでおなじみの『イブニング・スタンダード』だ。この試合に出場した若手のプレーを個別に検証する記事が掲載され、その中で宮市はこう評された。

「正統派のウイング。宮市は明らかに才能を持っているが、昨晩はいいポジションにも関わらずクロスの質の悪さが目立った。アーセナルはウォルコット、チェンバレンが離脱中でワイドが人員不足。だが、先発候補になる前に、20歳の日本人は未熟な才能を微調整する必要がある」

『デイリーメール』もこの試合の宮市にはチーム最低の「5点」という厳しい評価を付けた。同時に、アーセナルの若手を紹介する企画でも、「この日のラインナップの中ではどちらかといえばおなじみの名前だが、宮市がガナーズのシャツを着てピッチに立つのは珍しい」という程度の記述。プレミアのクラブに期限付き移籍していた実績などから名前は知られるようになったが、プレーはいまだ未知数。これが多くのイングランド人にとっての宮市の印象だろう。

 現状、宮市の一歩先をいくのは、キャピタルワン・カップで共に先発し、宮市がベンチに入ったストーク戦とスウォンジー戦では先発し、スウォンジー戦ではゴールも決めたグナブリーだろう。前述した『イブニング・スタンダード』の特集記事でも、宮市と対照的にグナブリーは「中盤で創造力と勤勉さを示した。ベンゲルは、この18歳がチームの主力になる可能性を秘めていると感じているはず」と高い評価を受けている。

 また、『デイリーメール』では、3週間ほど前に宮市とグナブリーが出場したもうひとつの“ウェストブロム戦”に関する記事を掲載している。と言っても、それはリザーブチームがプレーするU−21プレミアリーグの対戦だ。この試合で、宮市は背番号7を背負って右サイドで、グナブリーが11番を背負って左サイドで先発した。U−21チームの試合が記事になるのは珍しいが、記者の目当てはグナブリーである。新加入のエジルと同じドイツ出身ということで「ジャーマン・レボリューション」という見出しで彼の活躍が取りあげられた同記事の中で、宮市は記者をうならせるプレーを見せることはできなかった。記事内で触れられたのは、13分に右サイドから斜めに走り込んでグナブリーのスルーパスを受け、ワントラップでDFとGKをかわしたものの、無人のゴールへのシュートを失敗した場面のみ。宮市は62分に交代しているが、記事によれば同時にピッチを退いたグナブリーが「スタンディングオベーションで送られた」のに対し、宮市は「疲労が見え」、「構想入りに向けてベンゲルを納得させる出来ではなかった」という評価だ。

残された時間はそう多くない

 ベンゲルが若手の起用に積極的な監督であることは広く知られている。ケガ人続出の現状に、指揮官は「負傷者がいる間にチャンスをつかみ、実力を示さなければいけない」と語り、若手の発奮を期待している。宮市ももちろん期待される一人ではあるが、18歳のグナブリーをはじめライバルは数多い。ウイングではないが、中盤から前にかけては今夏のアジアツアーに参加し、キャピタルワン・カップにも途中出場した17歳のチュバ・アクポム、16歳にしてプレミアでベンチ入りを果たしているドイツの逸材ゲディオン・ゼラレムなど、グナブリーだけでなく宮市より年下の選手が出てきている。カソルラやポドルスキ、ウォルコットが復帰するまでに残された時間もそう多くはない。“若手の宝庫”で頭ひとつ抜け出すために、宮市は今後1カ月に与えられるチャンスをひとつも無駄にはできない。

<了>

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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