ヤンキース黄金期の終焉と冷酷な現実

杉浦大介

スタジアム周辺は早くも不似合いな静寂

ヤンキース黄金期の終焉……ジーター(右)、ペティットらが奇跡を起こし続けたチームではもうない 【写真は共同】

 1990年代後半以降、秋のニューヨークでベースボールはファンタジーだった。
 デレック・ジーター、ホルヘ・ポサダ、アンディ・ペティット、マリアーノ・リベラの“コアフォー”を中心としたヤンキースは、毎年決まって10月のプレーオフの舞台に登場。街の話題もヤンキース一色になり、チームとファンが一体となって進んで行く。そして……ワールドシリーズを制した直後には、天気予報のキャスターはこう伝える。
「明日のブロードウェイの天気は、晴れ、ところにより紙吹雪」

 しかし、時は流れ、2013年――。今シーズンのヤンキースは85勝77敗でアメリカン・リーグ東地区の3位タイに終わり、3年連続の地区制覇どころか、ワイルドカードでのポストシーズン進出すら叶わなかった。年中行事がお休みとなり、スタジアムの周辺も早くも不似合いな静寂に包まれている。
「ほんの10日ほど前、(9月9〜12日の)オリオールズ相手の4試合で3勝した頃には私たちは好位置につけていた。にも関わらず、プレーオフが始まる前に戦いを終えなければいけないというのは本当に辛いことだ」
 プレーオフ逸が決定した9月25日のレイズ戦後、ジョー・ジラルディ監督は消え入るような声でそう絞り出した。実際に12日の時点でワイルドカードまであとわずか1ゲーム差の位置にいたことは、そこに辿り着くまでのプロセスを考えれば大健闘と言って良かったのだろう。

故障者続出、最後まで揃わなかった戦力

 波瀾万丈のシーズンだった。ジーター、アレックス・ロドリゲス、マーク・テシェイラ、カーティス・グランダーソンといった不可欠の主力がケガで多くの試合を欠場。ロドリゲスの薬物使用事件でチーム全体、周囲が大揺れに揺れた時期もあった。
 そんな中でも、前半戦ではバーノン・ウェルズ、ライル・オーバーベイ、トラビス・ハフナーといった伏兵の予想外の働き、エースとして確立した黒田博樹の大車輪の活躍などで踏ん張り続けた。
 後半戦ではシーズン中のトレードで獲得したアルフォンソ・ソリアーノが8月だけで11本塁打、31打点と爆発。シーズンが進むにつれて戦力は少しずつ整い、ワイルドカードを争う中に飛び抜けたチームがなかったこともあって、奇跡の追い込みを期待させた時期もなかったわけではない。
 しかし……

「35本塁打、110打点が可能な選手(テシェイラ)を失い、40本塁打が打てる選手(グランダーソン)も不在の時期が多かった。レギュラー遊撃手(ジーター)も故障がち。そういった選手たちの穴埋めは簡単ではなかった」
 強がり続けたジラルディ監督も、ポストシーズン進出の可能性が消えた後、ついに堪え切れずに故障者多発について言及した。
 9月突入以降も、ブレッド・ガードナー、CC・サバシアといった重要メンバーが故障し、ジーターも再離脱。ケガ人は止まるところを知らなかった。この人材不足が響き、チーム打率はメジャー24位、防御率は同19位。結局、最後までプレーオフに進むに相応しいメンバーは揃わなかった感がある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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