ヤンキース黄金期の終焉と冷酷な現実
もはや奇跡を起こし続けてきた同じチームではない
ジーターが故障続きでわずか17試合の出場にとどまったのも痛かった 【写真は共同】
この日、試合前に今季限りで引退するリベラの送別セレモニーが行なわれ、“史上最高のクローザー”に大きな拍手が送られた。その後のゲームでは、同じく引退表明したペティートが7回2安打と好投してファンを喜ばせた。
「逆転を可能にする魔法が、私たちの中に残っていると思っていた。これまでいつもやり遂げ来たことだからね」
ペティートのそんな言葉通り、2人のヒーローの勇姿にスタジアムのムードは最高潮。終盤のドラマを予期したファン、関係者も多かったことだろう。
しかし……そこで突きつけられたのは、今のヤンキースは“これまでいつもやり遂げて来た”のと同じチームではないという冷酷な現実だった。
1点を追う最終回の攻撃で打席に立ったのは、シーズン途中に寄せ集められたマーク・レイノルズ、ブレンダン・ライアンという低打率の2選手と、9月にメジャーに上がったばかりのJR・マーフィー。ジーター、ポサダ、あるいは往年のバーニー・ウィリアムス、ティノ・マルチネスが示したような粘りは彼らから望むべくもない。3人はわずか16球で三者凡退に倒れ、絶対必勝だったはずのゲームは終わった。同時に、最終週に山場すら作れないまま、2013年シーズンも事実上終わりを告げた。
来季以降ヤンキースが被るダメージは計り知れない
ただ……あと1人でクローザーをマウンドから降ろすという異例の交代劇は、“消化ゲーム”だからこそ可能になったという皮肉な事実も忘れるべきではない。そして、今季も最後までプライドを誇示し続けたリベラ、ペティートが不在になることで、来季以降のヤンキースが被るダメージは計り知れない。
チーム最高の打者であるロビンソン・カノー、大黒柱として踏ん張った黒田は今季限りでFAになり、来季に残留するかは定かではない。ジーター、イチロー、サバシア、テシェイラといったベテランも年齢による衰えは隠し切れず、そんな彼らにとって代わるだけの若手も育っていない。
資金豊富なヤンキースならそれでもそれなりのチームは作ってくるだろうが、ただ、今後を考えたとき、1つだけ確かなことがある。
1996年以降の18年間で16度のプレーオフ出場、7度のリーグ制覇、5度の世界一……これから誰が主軸を担って行こうと、こんな驚異的な成功が繰り返されることはない。この黄金期の根幹となったジーター、リベラ、ペティート、ポサダのようなカルテットは、もう二度と現れることはない。
プロ意識の塊のようだった“コアフォー”は、常に勝利だけを目指し、犠牲を惜しまず、正しい方法でプレーした。新陳代謝の激しい米スポーツ界では永遠に思えるほどの長い期間に渡り、私たちを楽しませてくれた。彼らのおかげで、ニューヨークでベースボールはファンタジーになったのだった。
しかし、2年前のポサダに続き、2013年にはリベラ、ペティートが引退を決め、ジーターも17試合の出場に終わった。傷つき、疲れ果てた今季のヤンキースは、かつての鋼の強さを感じさせないまま敗北。この結果は単なるつまずきではなく、1つの時代の終焉を明白に指し示しているのだろう。
魔法の終わりは、厳しい現実の始まり――。プレーオフのないニューヨークの秋は余計に短い。そして、その先に、凍てつくように冷たい冬の開始がもう間近に迫っている。