ヤンキース黄金期の終焉と冷酷な現実

杉浦大介

もはや奇跡を起こし続けてきた同じチームではない

ジーターが故障続きでわずか17試合の出場にとどまったのも痛かった 【写真は共同】

 特にジャイアンツに1対2で敗れ、プレーオフ進出が絶望的になった9月22日のゲームの展開、結末は象徴的だった。
 この日、試合前に今季限りで引退するリベラの送別セレモニーが行なわれ、“史上最高のクローザー”に大きな拍手が送られた。その後のゲームでは、同じく引退表明したペティートが7回2安打と好投してファンを喜ばせた。
「逆転を可能にする魔法が、私たちの中に残っていると思っていた。これまでいつもやり遂げ来たことだからね」
 ペティートのそんな言葉通り、2人のヒーローの勇姿にスタジアムのムードは最高潮。終盤のドラマを予期したファン、関係者も多かったことだろう。

 しかし……そこで突きつけられたのは、今のヤンキースは“これまでいつもやり遂げて来た”のと同じチームではないという冷酷な現実だった。

 1点を追う最終回の攻撃で打席に立ったのは、シーズン途中に寄せ集められたマーク・レイノルズ、ブレンダン・ライアンという低打率の2選手と、9月にメジャーに上がったばかりのJR・マーフィー。ジーター、ポサダ、あるいは往年のバーニー・ウィリアムス、ティノ・マルチネスが示したような粘りは彼らから望むべくもない。3人はわずか16球で三者凡退に倒れ、絶対必勝だったはずのゲームは終わった。同時に、最終週に山場すら作れないまま、2013年シーズンも事実上終わりを告げた。

来季以降ヤンキースが被るダメージは計り知れない

 それから4日後のレイズ戦――。ヤンキースタジアムでのリベラの最後の登板は、すべてのファンの記憶にいまだ鮮明だろう。9回二死のマウンドにジーター、ペティートが歩み寄って交代を告げ、守護神はマウンド上で号泣。スタジアムの誰もが涙腺を緩ませた見事なまでの演出だった。
 ただ……あと1人でクローザーをマウンドから降ろすという異例の交代劇は、“消化ゲーム”だからこそ可能になったという皮肉な事実も忘れるべきではない。そして、今季も最後までプライドを誇示し続けたリベラ、ペティートが不在になることで、来季以降のヤンキースが被るダメージは計り知れない。

 チーム最高の打者であるロビンソン・カノー、大黒柱として踏ん張った黒田は今季限りでFAになり、来季に残留するかは定かではない。ジーター、イチロー、サバシア、テシェイラといったベテランも年齢による衰えは隠し切れず、そんな彼らにとって代わるだけの若手も育っていない。
 資金豊富なヤンキースならそれでもそれなりのチームは作ってくるだろうが、ただ、今後を考えたとき、1つだけ確かなことがある。
 1996年以降の18年間で16度のプレーオフ出場、7度のリーグ制覇、5度の世界一……これから誰が主軸を担って行こうと、こんな驚異的な成功が繰り返されることはない。この黄金期の根幹となったジーター、リベラ、ペティート、ポサダのようなカルテットは、もう二度と現れることはない。
 プロ意識の塊のようだった“コアフォー”は、常に勝利だけを目指し、犠牲を惜しまず、正しい方法でプレーした。新陳代謝の激しい米スポーツ界では永遠に思えるほどの長い期間に渡り、私たちを楽しませてくれた。彼らのおかげで、ニューヨークでベースボールはファンタジーになったのだった。

 しかし、2年前のポサダに続き、2013年にはリベラ、ペティートが引退を決め、ジーターも17試合の出場に終わった。傷つき、疲れ果てた今季のヤンキースは、かつての鋼の強さを感じさせないまま敗北。この結果は単なるつまずきではなく、1つの時代の終焉を明白に指し示しているのだろう。
 魔法の終わりは、厳しい現実の始まり――。プレーオフのないニューヨークの秋は余計に短い。そして、その先に、凍てつくように冷たい冬の開始がもう間近に迫っている。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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