ハクサン酒井学、逃げ馬の絶妙な駆け引き=スプリンターズS直前インタビュー
スタートの出遅れをプラスに
ハクサンムーンは逃げ馬にとって致命的な出遅れを繰り返すが、むしろプラスに転じているという 【netkeiba.com】
「相手が相手なだけに、『負かせるやろ』っていうほどの自信はなかったですけど、ムーン自体も力を付けてきていたし、一発あるならこのタイミングだろうなと思っていました。カナロアが休み明けだし、斤量差もありましたから」
大外8枠13番からのスタート。ゲートが開くと、他の馬に比べ一歩目が遅かったように見えた。逃げ馬の出遅れ。普通ならば致命的な展開だ。
「今回、特に目立ったかもしれないけど、もともと一歩目っていうのは速い馬じゃないんですよ。二の脚でサーッと行くんです。一歩目出て、二、三完歩してからトップスピードに行くまでの、ギアの入りがとてつもなく速い。今回大外枠だったから外から被される心配はなかったんでね、焦ることなく行けました。あのくらいは全然想定内です」
酒井の言葉通り、ハクサンムーンは大きくはないがたびたび出遅れている。スタートが決まったときにも、一完歩目はそれほど速くない。この、逃げ馬としてはマイナス要素と思えるゲートの出の遅さも、酒井はプラスに感じているという。
「逃げ切るためには、後ろに錯覚させないといけないんですよ。ムーンがスタートで遅いのも、一つの重要な要素だと思っています。何でかって言ったら、一歩目が遅いことで、『あ、出遅れた』って感じになるわけじゃないですか。周りはムーンがスタートの時点でポーンて抜けているイメージがあるから、『あれ? ハクサンムーンは?』って一瞬思う。そこでシュッと抜けるでしょ。そうすると、押して出してきている感じに見える。無理して行かせているように見えるから、『ちょっとペースが速いぞ』っていう錯覚に陥るんです。そこの心理をうまく働かせられるから。まあ、プラスに考えたらですけどね」
前哨戦で王者ロードカナロアに勝利
「レース前の駆け引きですね。この『何が何でも行く』っていうのはデカいと思います。今は周りも認識していて、たとえスタートが遅くても必ずハクサンムーンが来るって思わせられるので。前に小牧さんが乗ったときに、すごく絡まれたレースがあったんです。それでも絶対に譲らないっていう姿勢を見せて、結果としてはダメだったんですけど、そういうイメージを植え付けるための収穫はあった。負けたレースも無駄じゃないんです」
セントウルステークスは、酒井が作り出した絶妙のペースで進んだ。直線に向いたとき、外からロードカナロアが襲い掛かるが、ハクサンムーンは追い出しを待てるほど余裕があった。
「直線に向いて何か来ているなって感じましたけど、正直最初はカナロアって分かんなかったです。直線に向いたときにターフビジョンを見たんですけど、隊列は見えたけど、光の加減でどこにどの馬がいるっていうのまで見えなくて。で、『カナロアはどこにいるんやろ』って思いながら、追い出しを待って待って、チラって外を見たときに、『カナロアや』って気づいて。逆にビックリしました。高松宮記念のときみたいに、もっとすごい勢いで来ると思っていたから。
追い出したときにスッて反応してくれたんですけど、坂を上がるところから加速させているから、残り10メートルあたりのところでどうかなっていうのはありました。カナロア自体もピュンて伸びる感じじゃなかったから、『これはしのげるんちゃう』って思って。
でもめちゃくちゃゴールは遠く感じましたけど。やっぱり、相手の体が見えている位置でのたたき合いだったんでね。今回はカナロアが休み明けの分、斤量差の分も大いにある着差だったと思いますね。本番はもっと厳しい戦いになると思っています」
王者に勝利しても、浮かれることはない。チャレンジャーの立場として、しっかりと前を見据えている。
「高松宮記念のときは一つも二つも上の馬だったし、短距離王者っていう存在でしかなかった。でもそこから、ムーン自体も強い相手と戦ってしっかり結果を出してきて、当時からの上積みは大きいと思うんです。前はカナロアの足元も見えないような感じだったけど、付け入る隙があるところで勝つことができた。ようやく足元は見えてきたかなと思っています」
前哨戦を勝ち、サマースプリントシリーズ優勝という最高の結果を残したハクサンムーン。そしていよいよ、GIスプリンターズステークスに向けての戦いが始まる。