ハクサン酒井学、逃げ馬の絶妙な駆け引き=スプリンターズS直前インタビュー

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ポイントは「いかに2番手の勢いを削げるか」

中山は難しいコースだが、酒井は「2番手に控えるつもりはない。ハナは譲れない」と意気込む 【netkeiba.com】

 逃げ馬にもいろいろなタイプがいるが、酒井とハクサンムーンが刻むラップは、決してハイペースではない。常に絶妙なペースを作り出すため、コンマ何秒での駆け引きが行われているのだ。

「周りからもよく『そりゃ、あのペースで行ければ残るやろ』って言われます。でも、あのペースも考えて作っているんで。

 スタートがそんなに速くないから、基本的には途中からハナ行く形になります。その前にハナ行っている馬がいて、僕は外から行って。そのままキレイにスーッて抜きながら前に入っちゃうと、相手のペースに合わせているので、抜いた後も楽に並ばれちゃうんですよね。そうしたら、2番手の馬が来る分、行かなきゃならなくなる。だから、ギリギリのところで前に入ったんです。そうすることで、向うは一回クッと手綱を引かなきゃいけない。そこから僕の馬に並びかけようと思ったら、もう一度馬を促さなきゃいけなくなる。そのリスクを取って並びにくるのか、一回引いたところでジッと我慢するのか。それで、コンマ2秒ぐらいはペースを遅くできているんです」

 逃げている馬がペースを作っているように見えるが、実際は2番手の出方が大きく影響しているのだ。

「いかに2番手に付けた馬の勢いを削げるか、それが逃げるときのポイントですね。ホントに邪魔しちゃったら制裁になっちゃうし、ちょっとしたね、やられた方からしたら、『やらしい入り方するな』っていう感じでしょうけど。でも競馬になったら、特にこのクラスになったら、そういう一技、二技を使っていかないと。ハナ行く馬は常に追われる立場で競馬をしなきゃならないわけだから。いかに自分が楽になれるかというのを考えながらレースをしないといけないと思います」

 スプリンターズステークスは中山1200メートルで行われる。トリッキーな中山の中でも、難しいと言われるコースの一つだ。

「理想は1枠1番(編注:4枠7番に決定)。頭数が多いので大外はちょっとイヤですね。あとは何枠っていうよりも、自分の枠の近くに前に行くようなテンの速い馬がいてほしくないです。できることなら、横2頭ずつくらいは後方から行く馬の方が、スタートしてからのポジション取りが楽になってくるかなと。前に行く馬は内目にいてほしいです。

 今回行きたい馬も何頭かいますけど、2番手に控えるつもりはないです。ハナは譲れないですね。ペースが重要なんで、所々でやらしい乗り方をしないといけないだろうし。

 ただ、でも中山はホント難しいと思います。最初が下りなんで、どうしてもスタートしてからハイペースになりやすいんです。そこをいかにスピードを付け過ぎずに、ジワーっと行けるか。でもあんまりジンワリ行って引き付けちゃうと、みんなペースが遅いと思って早めに来るから。その加減が難しいところです」

恩師・西園調教師と共にGI制覇へ

 これまでの成績で、今回のGIは上位人気になることが確実。大舞台で注目馬に騎乗するプレッシャーはないのだろうか。

「去年ニホンピロアワーズでGI(ジャパンカップダート)を勝たせてもらいましたけど、四位さんから『まだ実感ないかもしれないけど、GIに勝つと何かが変わってくるから。何が変わるかは人それぞれやけど、絶対に何か変わってくるから』って言われたんです。自分では特に変わったつもりはないですけど、GIというレースに臨む緊張感というか、大きいレースで乗っても変な緊張感はなくなりました。

 GIに乗せてもらうのは、とてつもない経験値になるなっていうのは毎回思います。競馬がしやすいんですよ。全部よく知っている馬で、周りが見えやすいんですよね。乗っていて楽しいし、めちゃくちゃ勉強になります」

 ハクサンムーンは西園正都調教師が管理している。一時は乗り馬が激減してどん底を味わった酒井に対し、厳しくも温かく見守ってくれた恩師である。

「西園厩舎の馬っていうのはデカいです。ホントいい先生です。ムーンで京阪杯を勝ったときは、上がってきて先生の顔を見たら、グーッと胸に来るものがあって……。今までのことが、苦労したことがよみがえってきて涙が出ました。西園厩舎で重賞を取りたいっていうのが大きな目標の一つだったんで、それが現実になって。次はGIっていうところまで来たわけだし。

 シルポートで天皇賞とか宝塚記念とかに乗せてもらって、そういう経験の中からこういう馬に巡り合って重賞も勝って、段階を踏んでのGI挑戦なんでね。ポンって乗り替わりで乗ったわけじゃなくて、一緒に歩んできて。だからこそ、今回のGIに臨む気持ちはより一層デカいです!」

 西園厩舎で育まれ、ハクサンムーンと共に一段ずつ階段を上ってきた酒井。これまで積み上げてきた経験を引っさげて、いざ、スプリンターズステークスへ!

<了>

酒井学
1980年2月4日生まれ、新潟県出身。兄は川崎競馬所属の酒井忍。騎手デビューは1998年3月1日。その翌週98年3月8日、中京12Rマチカネヒガノボルに騎乗し、6戦目で初勝利を挙げる。2001年カブトヤマ記念では最軽量48キロで騎乗したタフネススターで優勝し、重賞初制覇。ほかにもサンダルフォン、ニホンピロレガーロ、ハクサンムーンなどでJRA重賞9勝(13年9月26日現在)。12年ジャパンカップダートではニホンピロアワーズでGI初制覇を飾った。

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