柏の「ACL4強」を支えた2つの勝因=“仮想“アルシャバブと選手の適応力

鈴木潤

厳しいサウジアラビアの環境に適応した選手たち

準決勝進出を決め、喜ぶ工藤(中央)ら。日本勢として、5年振りの優勝が現実味を帯びてきた 【写真は共同】

 一方、戦術的な部分以外にも忘れてならないのが、選手たちの試合へ向けた準備と適応力である。柏は昨年のACLでの経験から、極力現地には早めに入るように、クラブ全体が努めている。韓国のように、日本と距離も気候も近い国ならいざ知らず、サウジアラビアのような遠方の国では、1日の現地入りの遅れが致命傷にもなりかねない。今回も、試合4日前の14日には日本を発ち、現地で準備を進めた。そして異国の環境や気候に慣れるため、選手たちは限られた時間の中でさまざまな取り組みをしながら、試行錯誤を繰り返している。

 初の中東遠征となる今回、選手たちはまず時差の対応を考え、夜の練習時間までホテルでは各自部屋で過ごさず、できるだけ複数人で行動を共にしていた。そして、ストレッチや散歩など体を動かしながら、時差解消に努めたのである。あるいは乾きの対策として、練習2日目にはガムをかみ始め、「暑いが汗をかかない」(工藤)という日本にはない環境に対応しようとした。一見、何気ないことのようにも思えるが、大谷は「選手ができることは、どんなに細かいことでも全てやる。そういう準備は絶対に怠らない」と、事前準備の重要性を強調している。

準決勝の相手は広州恒大と決まったが

 今までのACLでも、アウエー戦で結果を残していたとはいえ、韓国と中国は比較的近隣の国であり、長時間移動のあったオーストラリアも時差は2時間だった。しかし今回は、10時間を越えるフライトと6時間の時差に加え、日中は40度を越える猛暑と砂漠気候特有の乾きにも対応しなければならなかった。選手たちの適応力がなければ、試合で好パフォーマンスを発揮することなど到底できなかっただろう。サウジアラビアという未知なる国の環境に、どこまで適応できるか。試合前日、鈴木大輔が「中東の気候と環境には適応している。自信がある」と胸を張って答えた通り、抜かりなく準備を進めた柏は、最高の結果を残した。

 灼熱のサウジアラビで「アルシャバブ優位」と言われていた下馬評を覆し、アウエー全勝こそ止まったものの、限りなく勝利に等しい引き分けを手にした柏は、次のステージに進むこととなった。準決勝では、広州恒大というさらなる強大な敵が待ち受けており、大苦戦は免れない。だが同時に“アジアの頂点”を視界にとらえ、5年振りの日本勢優勝にも現実味が帯びてきた。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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