Jリーグ2ステージ制復活の功罪=未来のために今すべきことは何か

宇都宮徹壱

サポーターから広くアイデアを募ることはできなかったのか?

十分な説明がなされないままでは、サポーターも納得できない。もう少し配慮が必要だった 【Getty Images】

――先ほども申し上げましたが、今回の件で個人的に最も残念に思われたのは、レギュレーションが変わること以上に、これまでお話された情報がJクラブのサポーターやファンの間でシェアできなかったことです。正直、今の状況だと「Jリーグは目先の金儲けのために、一生懸命アイデア出ししている」と思われていますよ。その上、いきなり「2ステージ制復活」なんてリーク記事が出てしまったら、不信感が募るばかりじゃないですか。私自身は、現状の1ステージ維持のほうがいいという立場ですが、もうちょっと情報を事前に共有できなかったのかと思うわけです

 そこで誤解を受けているのは、とても残念なところですよね。でも、先ほども言いましたように、われわれは目先のお金のことを言っているのではない。繰り返しになりますが、選手が出て行く一方で、育成にかけられるお金も削られて、しかも一般の人のJリーグへの関心がどんどん減っているというのは、まさに死活問題です。でも、このまま何もせずに、ゆでガエルになるわけにはいかないんですよ。

――そこは理解します。だからこそ問題意識を共有して、もっとサポーターやファンからアイデアを募集するというのもありだったとは思います。というのも、やっぱりみんなJリーグがなくなると困るわけですよ。クラブがなくなるのが悲しいのと同じくらい、Jリーグがなくなってしまうのは悲しい。Jリーグが困っているんだったら、知恵も手も貸すよっていう人って、それなりにいると思うんですよね。もっとファンやサポーターから広くアイデアを集めてみてもいいのかなと思います

 それは最近すごく感じていますね。これはあるサポーターの人から言われたんですけど、現状のカレンダーだとお盆の時期でも試合を入れていますよね。でもこの時期って、アウエーには行きたいけれど、飛行機も宿も非常に高いし、なかなか予約も難しい。だったら、近隣のダービーをお盆の時期に集中させると、アクセスも簡単だし宿をとる必要もない。しかも里帰りしている仲間を集めて、みんなで地元のJリーグの試合を楽しめるんじゃないかと。

――面白いアイデアですね。サポーターやファンって、そういうディテールの部分でのアイデアをたくさん持っていると思うんですよ

 そう、ディテールだけど、とてもいいアイデアなんですよね。こういったご意見の中には「これ、来年のカレンダーに反映できないかな」と思うような参考になる意見はたくさんある。

――Jリーグもサポーターも、基本的に日本サッカーを良くしたいという人が圧倒的に多いわけですから、そこは同じサッカーファミリーとしてどんどん意見交換したほうがいいと思うんですよね。ところが今回の件に関しては、申し訳ないですけど、Jリーグが密室でこそこそ決めているように、どうしても見えてしまっているわけですよ。その情報が、リークという形でポンと降りてきて、サポーターとしてもネガティブな感情が先立って、批判の横断幕が掲出されるわけです。本来は同じ方向に向かっていたファミリーであるにもかかわらず、余計な摩擦を生んでしまったことについては、非常にもったいなく残念に思います

 たぶん、密室っぽく見えてしまうのは、会議をやって次に発表できるまでの時間が長すぎるとか、その間に中間報告ができなかったとか、そういうところに原因があると思います。意見は広く集めて決めてきたつもりだし、これまでの話を聞いていただいて、理屈も分かっていただけたと思うし。

――理屈は理解できましたが、プロセスの部分でもう少しなんとかならなかったのかな、というのが私の率直な意見です。それに議論が性急すぎた感も否めないですね

 それはこの先のJリーグを考えた時に、今、手を打たないとその先のシナリオを組めなくなるからこそなんです。そこはたぶん、すごく誤解されやすいところなんですね。目先のことだけ考えて、やっているなって思われていることは分かっている。それは分かっているんですが、表現が悪いかもしれないけれど、飛行機が落ちる5分前になって「やばいです!」って言うことは、僕にはできない。今、なんとかしなければならないんです。

2015年以降のカレンダーはどうなるのか?

――話題を変えましょう。2ステージ制やポストシーズン制が実現するとして、気になるのはカレンダーの問題です。現状でも日本代表のスケジュールとの兼ね合いで、非常にキツキツの中で試合が組まれているわけですが、これでさらにポストシーズンが増えると、日程が厳しくなりませんか?

 それは確かにあります。もうひとつネックになっているのが、クラブワールドカップ(W杯)が12月に入ってくること。モロッコでやっている間(2013年と14年)は、どうにかなるのかなと思いますけど、また日本に戻ってきた場合にはどうするのか。その前の11月にしても、ナビスコカップの決勝やACL(アジアチャンピオンズリーグ)の決勝が入ってくるし、代表の試合も入ってくる。そんな中でJリーグも佳境に入ってくるから、難しくなることは間違いないです。

――そんな中で、さらに数試合を増やせるのでしょうか?

 今のカレンダーの中でも無理があるのに、さらに試合数を増やすということが厳しいことは十分に理解しています。正直、何もかもがうまく回るということではないんですけどね。するとどうしても、(シーズン)移行の話が出てくる。この大会方式の話とカレンダーの話は、密接な関係があります。この話に関しては、いつスタートさせるかという話も含めて、今は議論をしているところです。

――シーズン移行に関しては、ACLとの兼ね合いもあると思います。現状どおり2月からの開幕なのか、それとも秋からの開幕なのかでJリーグの日程への影響も変わってきますが

 まだ分からないですね。ACLは今まで以上に、移行する可能性が高まっている感じがします。会議に出ると、西側(中東諸国)は盛んに主張していますね。

――逆に東側(東アジア諸国)で結束して、今のままでいいという動きはあるんですか

 中国はものすごく反対していますね。韓国も基本的には反対です、冬は寒いから。ただし、韓国もACLのシーズンが変わったら、自分たちもなんらかの形で適用せざるを得ないと思い始めているようです。

――もう1つの外的要素として無視できないのが、2022年にカタールで開催されるW杯です。先日の報道によれば、FIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長が「カタールでの夏の開催はあり得ない」と発言していました。この影響についてはいかがでしょうか

 もちろんあります。10月にFIFAの理事会があります。そこで夏にはやらないということになった場合、そこからどうなるかについては、2つの可能性があると思います。カタールで冬にW杯を開催して、各国のリーグを調整してもらうのか。そもそも冬開催を前提にしていなかったので、もう一度投票をやり直すのか。で、日本も(大会招致に)手を挙げた当事者だから、その意味でも無関係ではいられない。

――現状では「時期については明言できないが、シーズン移行の可能性で合意」となっています。今後のアジアや世界の情勢を見極めるという意味では、まだまだ流動的という感じなのでしょうか?

 変える方向で動くし、変えるための準備には入りたいと思っています。特に施設ですよね。これはJリーグだけの問題ではなくて、積雪地域で少しでも長く子供たちが外でサッカーができる環境作りということなので、協会もそうだし、都道府県などの各自治体にも協力をお願いしていくことになると思います。これは移行する、しないにかかわらず、どういうふうにお金を捻出して、環境を整えるかということをまずやります。その結果として、ある程度の環境整備ができて「これなら行ける」となった時には移行するとは思います。

2/3ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

「最低限のスコア」西郷真央が日本勢最高3…

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント