Jリーグ2ステージ制復活の功罪=未来のために今すべきことは何か

宇都宮徹壱

「土曜日にもJ2を開催してほしい!」

読者からの質問ではJ2の日曜開催やベストメンバー規定に対する質問が多かった 【Getty Images】

――最後に、今回の取材に関して「Jリーグにこれを聞いてほしい」という質問を読者から募集しましたので、お答えいただきたいと思います。これは大きく2つあって、まずはJ1土曜開催、J2日曜開催についてです。特に「土曜日にもJ2を開催してほしい!」という意見はかなり多かったですね。実際、世の中には週休2日でない仕事の人もたくさんいるし、日曜日のアウエー観戦は翌日の仕事を考えると厳しい。私もJ2の取材をしていると、よくそういう話を耳にします

 その話は、僕自身もよく耳にするし、申し訳ないなという気持ちもあります。でもその一方で調査をすると(開催曜日を分けたことで)「行きやすくなった」というサイレント・マジョリティーも結構いらっしゃるんですよね。

――データによると、開催曜日を分けたことで「行きやすくなった」というのが、J1で40.1%、J2で24.9%ですか

 J1に関しては「やや行きやすくなった」(11.7%)と合わせて、半分以上が「行きやすくなった」と答えているんですね。これに「どちらでもない」(34.8%)を合わせると、大体85%の人たちがニュートラルからポジティブにとらえていることが分かります。

――J2の場合ですと、「行きにくくなった」(13.4%)と「やや行きにくくなった」(17.1%)を合わせて30.5%ですか

 それに対して「やや行きやすくなった」(10.5%)を合わせると、J2でも「行きやすくなった」と考える人は35.4%。「行きにくくなった」という人たちは声を挙げますけれど、「行きやすくなった」という人たちは、そういうことはあまり言わないですよね。そういうサイレント・マジョリティーをどう評価するかだと思います。

――ちょっと意外でした。でも、こういう数字もきちんと公開したほうがいいですね

 僕もオープンにしたほうがいいと思います。もちろん、30.5%の意見についても、無視するつもりはありません。J2のすべての試合を日曜でなくするのは難しいけれど、それでも去年と比べて数は減っているはずです。今後も何とか調整して、土曜にできるJ2の試合を毎節何試合か開催することによって、日曜開催を減らしていくことができるかなと思っています。今年も、なるべくJ1の試合がない国際試合日には、J2の試合を持っていくようにしています。ですから、そういった改善は少しずつですが進んでいます。

――この調査のサンプルはどれくらいでしょうか?

 この観戦者調査は、約1万7000人の調査でした。実は、今回の2ステージ制についても、僕らが持っている資料では賛成が多い層も結構あるんです。そちらの調査は今年の6月に実施したWeb調査で、約6万人のサンプルですから、結構正確なデータだと思います。

――どのあたりの層ですか?

 スタジアム観戦回数で言うと、観戦回数が(年)10回以下の人たちは賛成なんですよね。でも10回って、結構行っているじゃないですか。そういう人たちは賛成の方が多いんですよ。逆に観戦回数が21回を超えると、半分が反対なんですね。21回だと、アウエーにも行っている人ですよね。でも、おそらくホームが多い10回までの人たちだと、ファンでさえも(2ステージ制導入)賛成のほうが上回っているんですよ。これは僕らが発表する前の調査だから、今はもうちょっと増えているとは思います。

未来にどんなことがあっても対応できるオプションが必要

――もう1つ多かった質問が、ベストメンバー規定に関するものです。今後、見直す可能性はありますか?

 先ほども言いましたように、育成をどうするかということは重点的な課題なので、これについては戦略会議の中で取り上げられています。大会の権威を損なわず、いかに若い選手にチャンスをあたえるのか。方向としては「ルールとしてはなくさないけれど、緩和はする」というものです。これはナビスコカップに限った話ではなく、リーグ戦においても結構大切なルールだと思っています。たとえばJ2の2位が確定したチームが、残り3試合で天皇杯に向けて若手主体にしたとする。でも、プレーオフ圏内を狙っているチームとの対戦があれば、当然順位にも影響してきますよね。そこであからさまにメンバーを入れ替えてしまっては、絶対に問題になりますよ。

――確かに、そうですよね

 これは日本に限った話ではありません。プレミアリーグでもウォルバーハンプトンがマンチェスター・ユナイテッドとのアウエー戦でメンバー10人を入れ替えたことが問題になって罰金処分(執行猶予付き)を受けたことがあったんです(編注:09年12月15日)。この時、最も怒っていたのは、アウエーに駆けつけていたサポーターだったんですよね。ですので、話を戻しますとベストメンバー規定に関しては、リーグやカップ戦の権威を守るためにも完全にはなくさないけれど、もう少し若い選手が起用されやすいルールには変えていこうと思っています。

――今度は私からの質問です。何度もお金の話が出てきましたが、外資をJリーグの中に入れるかどうかという判断については、いかがでしょうか?

 ちゃんとした議題としてはないけれども、意見としては出ていますよね。世界を見渡してみると、イングランドのように開放して成功した国と、ドイツのように外国資本によるクラブ保有に規制をかけて成功している国もある。ただイングランドの場合も、サポーターが根付いているからリスクは少ないですよね。日本の場合は、これまで地域に根ざしてやってきたことが、損なわれるリスクというものがあるかもしれない。ただ、資金調達の方法として「何を緩和していけば、もうちょっとJリーグにお金が入りやすくなるのか」という議論も、あるにはあります。もっとも規制緩和したところで、リーグ自体に魅力がなければ、どこも興味は示さないでしょうから、まずは魅力の部分での議論が先でしょというのはありますね。

――では、最後の質問です。Jリーグが20周年を迎え、当時改革に関わった人たちの再評価がなされています。今、中西さんたちがやろうとしていることが、20年後にどういう評価をされているか、考えたことはありますか?

 ありますよ。歴史の中に置いて考えることはしていますね。マクロ的な視点で言うと、この20年における世界のサッカーの変化はものすごかったわけですよ。今後10年、20年で、さらに大きく変わるかもしれない。ガレス・ベイルが約129億円でレアル・マドリーに買われていきましたけど、今後ますますヨーロッパに人とお金が集まり過ぎてしまう状況も十分にあり得ます。チャンピオンズリーグだけでは満足できない人たちが、今度はヨーロッパスーパーリーグみたいなことを画策しないとも限らないですよね。そうすると、欧州各国のリーグは2軍、3軍扱いになってどんどん衰退しますよ。ましてや、アジアのリーグのプロリーグってどうなっちゃうんですかね。

――考えてみれば20年前って、海外からワールドクラスの選手がどんどん来日してきて、Jリーグこそが世界で最も潤っていたリーグだったんですよね。それこそボスマン判決以前には、20年後のこうした状況というものはまったく予想外の世界観だったと思います

 もちろん、未来を完全に予測することはできない。それでも、未来にどんなことが起こっても到達したいこと、どんなことがあっても対応できる選択のオプションというものは、常に準備できているということが大切だと思っています。グローバルな動きの中で、Jリーグはものすごく20年前よりも影響を受けやすくなっていますよね。僕はそういう傾向はますます強くなると思っています。
 そういう中で、このプロリーグをどういうふうに育てるかということを考えなければならない。サッカー界の未来がどう変わるのか。それにどう適応するのか。そして、われわれの達成する目標を妨げるものは何で、後押ししてくれるものは何なのか。そういったことを長いスパンの中で考えながら、今、手を打たないと手遅れになるものを判断しているつもりです。ですから何度も言いますが、決して目先のことだけを考えているわけではないことは、ぜひご理解いただきたいと思います。

<この稿、了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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