一大危機でひとつになったレスリング界=政治的対立も乗り越えて五輪競技存続へ

布施鋼治

体制刷新と新ルール導入を実行

ラロビッチFILA会長(右)らとともに吉田(中央)もロビー活動に積極的に参加した 【写真は共同】

 ラロビッチ会長は、まず女性委員会と倫理委員会を新設。陸上競技と並ぶ古い競技ながら、女性の声が届きづらい旧態依然とした古い体質にメスを入れた。これも、IOCの「男女格差の是正」というリクエストに応えての行動だ。今後、副会長には女性が起用される方針。存続危機の岐路に立たされた今年8月には、16年のリオデジャネイロ五輪から女子の階級数を現行の4から6に増やすことを決めた(代わりに男子のフリースタイルとグレコローマンはひとつずつ減って各6階級となる)。

 また、ロンドン五輪でも「分かりにくい」という声が相次いだルール改正にも着手。より観客に分かりやすくするため、試合時間は1ピリオド2分の3ピリオド制から1ピリオド3分の計2ピリオドで争って、合計ポイントで雌雄を決するものに変更した。

 大枠は04年のアテネ五輪まで施行されてきた旧ルールに戻ったように思えるが、新ルールでは、たとえ第1ピリオドであっても7点差がついた時点でテクニカルフォール勝ちとなる。以前は第1ピリオドでテクニカルフォールを奪っても、試合はそのまま続行されていたので、これだけでも大幅な試合時間短縮につながる。

 新ルールでは、大量リードを奪っていても決して安泰ではない。というのも、審判はよりアテンション(注意)を厳しく取るようになったからだ。仮にポイントでリードしていても、守りの姿勢を見せていると、すぐ注意が飛び、2回目にはコーション(警告)となる。そして従来通り、3回アテンションが続くと失格となる。

 それだけではない。レスリングの代名詞であるタックルなどでテイクダウンを奪う得点は、1ポイントから2ポイントに変更された。新ルールでのレスリングはより攻撃型になったといってもいいだろう。

国別対抗戦が伝えたメッセージ

 五輪競技存続へのメッセージをレスリング界一丸となって伝えようと、5月にはニューヨークで米国、イラン、ロシアのレスリング3大強豪国による国別対抗戦が開催された。政治的に対立する3国がスクラムを組むなど、今まではあり得なかったことだが、レスリングの一大危機となれば話は別だった。

 今回のIOC総会に向け、FILAが「Save Olymipc Wrestling」キャンペーンのために世に送り出したキャッチコピーは「All Nations.All People.For All Time」(レスリングはすべての場所で、すべての人のために存在し、スポーツの起源である)。
 五輪種目でなくなるかもしれないという競技としての存亡の危機が世界のレスリングをひとつにまとめた。迅速な対応や改正もさることながら、一丸となったことが存続を決めた最大の要因だったのではないだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

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