欧州移籍市場から考察する金銭の動き方=Jにはない選手の見方と移籍の価値観
天文学的な高値が付いたベイル
ベイルを筆頭に高額な移籍金が動いた移籍市場。各クラブの補強から金銭の動きを考察したい 【Getty Images】
レヴィ会長がベイル放出後も「売るつもりはなかった」と発言しているように、トッテナムが経済的必要性に駆られていなかったことは確かだが、一方でベイルの移籍が正式発表される直前の8月30日に推定5500万ユーロ(約72億円)を投じてMFクリスティアン・エリクセン(←アヤックス)、MFエリック・ラメラ(←ローマ)、DFブラド・キリケシュ(←ステアウア・ブカレスト)という代表クラスの3選手の獲得を決めている。裏を返せば、ベイル放出で得られる1億ユーロ近い移籍金を見込んだ上での迅速な補強であり、少なからずフロントからは看板選手を引き抜かれることに対するセンチメンタルな感情や、イノセントな対応はみじんも感じられない。
移籍市場で動く選手の数も移籍金の額も日本のJリーグとは比べ物にならない欧州ではあるが、本稿では今夏の欧州移籍市場の中で各クラブが選手売却資金をどのようにチーム強化につなげているのかを見ながら、最終的にJクラブや日本サッカー界として参考にできそうなものを抽出するようにしたい。
ファルカオ移籍の裏にあった密約
昨シーズン終了直後にあっさりとFWラダメル・ファルカオをモナコに放出したアトレティコ・マドリーのケースも見ておこう。2011年8月にマンチェスター・シティに移籍したFWセルヒオ・アグエロの後釜として、ポルトから加入したファルカオの移籍金は4000万ユーロ(約52億円)。アグエロの移籍金が4500万ユーロ(約59億円)であり、表面上はその移籍金を使ってA・マドリーはファルカオを獲得したように見えるが、実際には財政難に苦しむA・マドリーはポルトからファルカオを獲得する際に、ドイエン・スポーツ・インベストメント(DSI)という投資ファンドグループから資金提供を受けている。その額は明らかになっていないが、モナコとの移籍交渉においてA・マドリーの主導権がなかった事実からしても少なくない額、パーセンテージの資金提供があり、昨シーズン終了前からDSIとモナコの間で話しはついていたと推測できる。
報道では、ファルカオのモナコ移籍によってA・マドリーは契約解除金の6000万ユーロ(約79億円)を受け取ることになっているが、当然ながらDSIは投資額を回収した上で利益を確保しているため、A・マドリーが6000万ユーロを満額受け取ることはない。それを裏付けるように、ファルカオの後釜としてバルセロナから獲得したFWダビド・ビジャの移籍金は510万ユーロ(約6億7000万円)で、これは単に交渉の出来、不出来ではなく、ストライカー獲得に使うことのできる補強予算の設定が低かったということだ。