西川の異能を感じさせる突出した攻撃性=目指すは世界で評価されるGK

中野和也

欧州のジャーナリストも舌を巻くプレー

「困った時は、俺にパスを出せ」。そういうことを言えるのも足元の技術に自信を持っているからこそだ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 最後尾からボールをつなぐ。それが広島の持ち味であるが、そのサッカーが完成の域に近づいて結果を出しているのは、最後尾に西川という「笑顔のゲームメーカー」がいるからだ。

「周作にパスを出すことで相手のマークをはがして、ボールをもらいなおすこともある」とは千葉和彦の言葉。「技術は一級品。浮いたボールを出しても、全く問題なくコントロールしてくれる。僕らにとっては最大の武器」と青山敏弘が言えば、佐藤寿人も「広島にはフィールドプレーヤーが11人いる。シュウはGKではなくリベロ」と絶賛する。

 GKとしては出色と言っていい足下の技術。ゴールエリアの中で相手のプレスを外し、切り返してパスをつなぐシーンは、広島サポーターにはおなじみだ。パックパスを受けて蹴り出すのではなく、ショートパスでDFにつなぎ、ポジションを取りなおして再びボールを受け、ダイレクトで展開する。相手の陣形のスキをつき、縦にクサビのパスを入れたり、裏に蹴って味方を走らせたり。ボールを動かして深さを作り、相手の守備ブロックを広げる広島の攻撃は、西川の技術を抜きにしては考えられない。

 昨年のクラブワールドカップを取材した欧州のジャーナリストがミキッチとの雑談の中で、「どうしてニシカワは前に蹴らず、パスをつなげることができるんだ。考えられない」と語っている。パスをつなげるGKはヨーロッパにもいるが、そういう選手を見てきた彼らからも、西川は「異能」に見える。

「世界の舞台でそう評価されるGKになりたい」

「月間MVPを頂けるなんて、予想もしていなかった。うれしいです」とトレードマークである笑顔を見せた広島の背番号1は「他のGKと違ったことができないと、普通の選手で終わってしまうから」とも語った。

「シュートを止めたり、守ることでチームに貢献することがまず第一。だけど、それだけでは世界で戦うことは難しい。ジュリオ・セザール(ブラジル)やブッフォン(イタリア)らを見ても、他のGKならクリアするシーンでもパスしている。ヘスス・コロナ(メキシコ)にいたっては、日本代表でのミーティングで『キックの質が高いから気をつけろ』という指摘があったほど。僕もいずれは、世界の舞台でそう評価されるGKになりたい。守るだけでなく、得点につながるプレーを、いつも意識したいんです」

 夏場になるとチーム全体の運動量が落ち、広島のボール保持率も下降気味になりがちだ。そういうときこそ、西川は仲間たちに声をかける。

「困った時は、俺にパスを出せ」

 そんなことを言えるゴールキーパーは、やはり特別なのである。

<了>

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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