西川の異能を感じさせる突出した攻撃性=目指すは世界で評価されるGK
「異質感」を感じさせたワンプレー
7月の月間MVPを獲得した西川。その攻撃性はGKとしては異質なものを感じさせる 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
スコアは3−2、サンフレッチェ広島リード。川崎の攻撃力を考えれば、1点差などティッシュの厚みと同程度ほどのアドバンテージである。実際、川崎は同点を期して、しゃにむに攻勢を仕掛けてきた。そのプレーは、川崎の圧力を広島がしのぎ、ゴールキックを獲得した直後に起きる。
西川がボールをセットしたとき、二つの選択肢があったはずだ。一つは、ゆっくりと時間をかけ、最終ラインにボールをつなぎつつ、時間を稼ぐこと。普通であれば、こちらを選択するだろう。特に広島はポゼッションに特徴があるチーム。最終ラインでボールを回しながら相手をかわし、キープを続けることで逃げ切ろうと考えても不思議ではない。しかし、西川はもう一つのプレーを選んだ。
仲間も信頼を寄せる正確なロングキック
特筆すべきは、左足キックの正確性だけではない。彼自身が常に「得点を狙っている」ことだ。それは5月18日の対ヴェンファーレ甲府戦、一発のパスで相手DFの間を割り、佐藤寿人にビッグチャンスを供給した例でもわかる。「まずは寿人さんの動きを見て、裏を狙う。一発のパスでアシストしたい」。それが、西川の口ぐせだ。だから彼は、バックパスをもらってもあえてボールをキープし、タイミングを測る場合がある。千葉和彦や森崎和幸とパス交換し、プレスがきても全くあわてることなくボールを動かし、何げないパス交換を繰り返しながら、守護神は常に攻撃のチャンスを狙う。それは裏へのパスだったり、クサビのパスだったり、サイドへの展開だったりとバリエーションも豊富だ。
そんな西川の攻撃性とセンス、両足で自在にボールを扱える技術が分かっているからこそ、守護神がボールを持った瞬間、広島のアタッカーたちは走り出す。走れば出てくると信じて、最適解となるポジションをとる。たった一発のゴールキックで数的同数を作ったのは、偶然ではない。西川とその仲間たちが育んできた、これもまたコンビネーションなのである。
GKとしての才能とは別の独自の武器
ハイボールにも強く、キャッチングもうまい。前に出る決断も確かで、躊躇(ちゅうちょ)がない。しかし、それはトップクラスのGKであれば、多くの選手が持っている「才能」であり、「能力」だろう。西川を西川たらしめているのは、なんといっても彼の攻撃能力だ。
例えば、仙台戦の82分。ファン・ソッコが相手の圧力をかわそうと西川にバックパスを出したのだが、そのボールが浮いてしまった。しかし、西川は全くあわてず、難しいショートバウンドのボールをダイレクトで浮かす。プレスに来た武藤の頭を超えるループパスを正確にファンに通したのだ。その1分後、山岸智のバックパスを今度はトラップ、梁勇基を引きつけて送った縦パスは、高萩洋次郎にピタリ。まるで精密機械のような西川のパスが起点となって、その後の野津田岳人の決定的なシュートを呼び込んだのである。