大宮をけん引するズラタンの影響力=強さの秘密はチーム優先の精神

上野直彦

月間MVP受賞の理由

敵地でのC大阪戦、ズラタン(白)は終了間際に劇的なゴールを決め、退場で1人少なくなった大宮に勝利をもたらした 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 各月のリーグ戦(J1・J2)において最も活躍した選手を表彰する「コカ・コーラ Jリーグ 月間MVP」の4月度の受賞選手に、大宮アルディージャのズラタンが選出された。受賞理由は以下の通り。

「4月に開催された4試合すべてに出場。3試合連続で決勝点を決め、FWとして、第4節から第10節までの7連勝、そしてJリーグ記録となる連続無敗記録に貢献した。また、得点しなかった試合でも、2得点に絡む活躍を見せた。右足、左足、ヘディングと多彩なプレーで得点を決めるズラタン選手のプレーは、大宮アルディージャのファン・サポーターのみならず、多くのサッカーファン・サポーターを魅了した」

 渋いひげが似合う現役スロベニア代表。スピード、フィジカル、ポストプレーに優れ、サポーターへの紳士的な対応に女性ファンも多い。受賞に際し、「われわれがチームとして力を合わせた結果があったからのことで、われわれの中の誰が選ばれてもおかしくないパフォーマンスだった」と、喜びと感謝の言葉を口にした。これはリップサービスでも謙虚な姿勢を強調しているからではない。すべて本音だ。ここにズラタンの強さの秘密がある。彼は、いついかなるときも、自分よりも「チームが優先」なのだ。

圧巻だったC大阪戦の決勝弾

 4月の3試合連続での決勝点は、すべてのゴールが鮮烈だった。
 第5節のFC東京戦の後半33分、GK権田修一が前に出てくるクセを見抜いた下平匠がマイナス気味のクロスボールを供給し、これをズラタンが頭から飛び込んで決めた。残り時間が少ない中、しかもけが明けという難しいコンディション状態での、まさに意地のヘディングゴールだった。

 第7節は、さいたまダービー。そう、最大のライバルでもある浦和レッズとの大一番だ。両サポーターの張りつめた空気で満たされたNACK5スタジアム。その緊張感がオレンジの歓喜に変わった。前半終了間際、渡邉大剛からの絶妙なパスをゴール前で待ち構えていたのはズラタン。ゴールは流し込むだけだった。そして激闘を制した試合後のコメントが、いかにも彼らしかった。「自分がゴールすることではなく、チームが勝つことが大事。私のゴールがチームの勝利の助けになれば、これほどうれしいことはない」

 そして圧巻だったのは、何といっても第6節のセレッソ大阪戦だ。
 開始直後の金澤慎のロングシュートで先制するも、最も警戒していた柿谷曜一朗に決められ同点。さらにチームはピンチに陥る。後半19分、ファウルの判定を受けたDF高橋祥平が抗議を繰り返し、警告を受けて退場。数的不利となってしまった。しかも5連戦の最終戦でアウエー。選手全員の疲労はピークに達していた。

 そこで、ズデンコ・ベルデニック前監督はいちかばちかの賭けに出た。
 選手交代を進めながらも、足がつって満身創痍(そうい)のズラタンをワントップに残したのだ。そんな中でも監督の期待に応えようと、彼は必死に走り続け、そして戦い続けた。そんな姿をサッカーの神様が見ていたのかもしれない。

 後半40分、執念のゴールが生まれる。「ズラタンと競り合うことを嫌がっていた感じだったので、ボールをつなぐより前に入れた」下平が前線へ。そこからつながったボールをズラタンは右足で浮かし、相手DF茂庭照幸の頭上を越えたボールを左足でボレー。魂のシュートがネットに突き刺さった。単に決勝点と呼ぶにはもったいない、あまりにも劇的なゴールのため、両サポーターが一瞬黙ってしまったほどだ。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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