早すぎたユナイテッドとチェルシーの激突=新指揮官対決に見た収穫と課題

鈴木英寿

「選ばれし者」対「見過ごされた者」

早すぎる対面を果たした、ファーガソンの後を継いだモイズと、チェルシーに帰還したモリーニョ 【Man Utd via Getty Images】

 マンチェスター・ユナイテッドが本拠地オールド・トラフォードにチェルシーを迎え撃った8月26日。『タイムズ』紙は、両クラブの指揮官の激突を次のように評している。
 デイビッド・モイズ対ジョゼ・モリーニョ。すなわち「選ばれし者(The Chosen One)」対「見過ごされた者(The Overlooked One)」。

 27年に渡りユナイテッドを率いて、黄金時代を築いたサー・アレックス・ファーガソンが昨季限りで勇退。後任には同じスコットランド人のモイズが「選ばれた」。モリーニョはファーガソンと友好関係を築き、その後任の座を虎視眈々(たんたん)と狙っていたと言われるが、結局古巣チェルシーへと帰還。そうした経緯を踏まえ、同紙は両指揮官を様々な角度から比較している。

 ともに1963年生まれの50歳で、二人とも監督ライセンスをスコットランドで取得している。モイズは資金力に限りのあるエバートンで堅実な実績を重ねてきた。FCポルト、チェルシー、インテル、レアル・マドリーで様々なタイトルを獲得してきたモリーニョは、今季からチェルシーに復帰。今では自らを「幸福な者(The Happy One)」と呼び、国際的タイトルホルダーとしての余裕と誇りをみなぎらせている。

変化を期待するファンと悩める指揮官

 ただでさえ、今季の欧州サッカーシーンは、ビッグクラブの新指揮官招聘(しょうへい)、大物監督の移動が話題を呼んできた。国外を見ても、レアル・マドリー(カルロ・アンチェロッティ)、バルセロナ(ヘラルド・マルティーノ)、バイエルン・ミュンヘン(ジョゼップ・グアルディオラ)、パリ・サンジェルマン(ローラン・ブラン)。プレミアリーグでは、昨季上位3チームに監督交代があったのだ。そのうちの1チーム、昨季2位のマンチェスター・シティのマヌエル・ペジェグリーニ新監督は、イングランド代表のロイ・ホジソン監督らとオールド・トラフォードのVIP席でこのビッグマッチを観戦している。

 両指揮官の到来によって、マンチェスターとロンドンの雄にはどんな変化がもたらされるのだろうか。そんな期待を高めながら観戦したファンも、少なくはないはずだ。

 だが試合前、モイズはこう語っている。
「この試合はあまりにも早く訪れた。いまだにスカッドをどう編成すべきか話している段階だし、移籍マーケットも締まってはいない」

 確かにこの試合開始時点で、ウェイン・ルーニーは対戦相手であるチェルシーから熱烈なオファーを受けていた。また、ユナイテッドもガレス・ベイル(トッテナム)、マルアン・フェライニ(エバートン)といったアタッカー獲得に興味を示していた。

昨季と同じ顔ぶれの中にあった最大の驚き“ルーニー”

 そして、こうも語っている。
「シーズン開幕後のチェルシーを見て『昨季のチームから多くが変わっただろうか』と問われれば、『変わっていない』と答えるだろう。マンチェスター・ユナイテッドにしても、現時点では同じことが言える」

 事実、ユナイテッドのスタメンには昨季から比べて、大きな変更点はなかった。
 フォーメーションは4−2−3−1。GKはデ・ヘア。4バックは右からフィル・ジョーンズ、リオ・ファーディナンド、ネマニャ・ビディッチ、パトリス・エブラ。2ボランチはトム・クレバリーとマイケル・キャリック。攻撃的MFは右からルイス・アントニオ・バレンシア、ルーニー、ダニー・ウェルベックという並びである。1トップはもちろん、2季連続得点王のロビン・ファン・ペルシー。交代選手も含めて、新加入選手の出場はなかった。

 チェルシーもスカッドの骨格は昨季とほぼ同様である。
 フォーメーションは4−2−3−1。GKはペトル・チェフ。最終ラインは右からブラニスラフ・イバノビッチ、ジョン・テリー、ガリー・ケイヒル、アシュリー・コール。2ボランチがフランク・ランパードとラミレス。興味深かったのは、攻撃的MFとセンターFWに新加入選手を抜てきしたことである。左MFのエデン・アザール、トップ下のオスカルは昨季からのメンバー。だが右MFにはケビン・デ・ブライネ、センターFWには大方の予想(フェルナンド・トーレスのスタメン出場)を裏切り、アンドレ・シュールレが起用されている。これには多くの現地記者が驚きを隠せないでいた。

 だが、最大の驚きはウェイン・ルーニーの奮闘ぶりだろう。

『タイムズ』紙のサッカー担当チーフを務めるオリバー・ケイ記者は、試合前のプレビューで「ルーニーのスタメン起用は困難」との見解を示していた。というのも、チェルシー側がルーニー獲得に動いてきた経緯もあり、モイズ監督はこの試合でルーニーを出場させないのではないか、という憶測があったのだ。とはいえ、ルーニーはゴールこそなかったものの、攻守に渡り高い貢献度を示し、『テレグラフ』、『サン』といった各紙の採点でもチーム最高点をマークしている。

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著者プロフィール

1975年生まれ。仙台市出身。仙台一高、東京理科大学卒。『週刊サッカーダイジェスト』編集記者を経て、2005年に退社。2006年からFIFA.com日本語版編集長を務め、FIFAドイツ・ワールドカップ、FIFAクラブワールドカップの運営に携わる。2009年、ベガルタ仙台のマーケティングディレクターに就任。2010年末より当時経営難に陥っていた福島ユナイテッドFCのアドバイザーを務め、2011年2月から2012年7月までは同クラブ運営本部長として、経営難と東日本大震災という二度の難局を乗り切った。2012年8月よりFIFA.comに復帰し、9月より渡英。現在はプレミアリーグ、チャンピオンズリーグなどの現場を取材しながら『Number』や『ワールドサッカーダイジェスト』などに記事や翻訳を定期的に寄稿中。訳書に『プレミアリーグの戦術と戦略』(ベスト新書)。

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