クラブに必要とされ続ける清武弘嗣の価値=指揮官も期待するピッチ上の存在感の向上

悪夢を振り払った直接FK弾

ヘルタ・ベルリン戦の終了間際にFK弾を決め、日頃の練習の成果を見せた清武 【Bongarts/Getty Images】

 ニュルンベルクは開幕戦に続いて再びビハインドを負った。クラブはまたしても、敗戦を免れるためにあらゆる力を振り絞らねばならない。シーズンは始まったばかりだって? いやいや、これは夢というよりも悪夢のような状態だ。

 この試合はブンデスリーガ第2節。清武弘嗣は日本からの骨身にこたえる2万マイルの空の旅を経て、ヘルタ・ベルリンとの試合を戦っている。時差ボケに悩まされ、ステップは重くなり、動きは鈍くなっている。

 それでも清武は、89分にスタジアムの人々の目を覚まさせた。FKを直接沈めて、2−2のドローへと持ち込んだのだ。

「キヨは大事な場面で、いつもよくやってくれる」。彼の指揮官であるミヒャエル・ビージンガーは、試合後に称賛の言葉を続けた。あの得点は、「今節のベストゴール」に選ばれることだろう。狂ったようにセットプレーの精度を磨く、彼の練習のたまものだ。これぞ、清武を他と一線を画させるもの。だからこそ清武は、ほぼ休むことなく汗を流す。「旅の疲れの対処法は?」との質問に、「彼が対処しなければならないものだ」とビージンガー監督は答える。清武も、きっとそう心得ている。

指揮官の理解のもと赴く日本代表の遠征

 清武は日本代表での遠征を休みたがらない。「僕には光栄なことなんです」と23歳の若者は言う。来年にブラジルワールドカップ(W杯)の舞台で母国を代表することを思い描くと、彼の瞳は輝きを放つ。

 遠征での代償を支払うのは、清武の体だけではなく、クラブも同様である。昨季、清武はオマーンとヨルダンへ赴き、2022年のW杯開催国のカタールには2度入った。さらには、ほとんど欧州全体を旅して回り、4度日本に帰国し、ブラジルでコンフェデレーションズカップも戦った。ドイツのギド・ベスターベレ外相は、清武の広範にわたる旅路を知って、嫉妬心を抱くことだろう。

 ニュルンベルクのビージンガー監督は、それらすべての旅が必要なものだったとしても、それに価値を付けることを望んではいない。彼は「サムライブルー」の重要性を理解しているし、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督が招集のレターを送ってくれば、清武はスーツケースに荷物をまとめるだけ。

 クラブも清武にとって大事な存在であり、ニュルンベルクのためにプレーする誇りを、飽きることなく繰り返す。日々の糧となるものであり、ザッケローニ監督に向けての名刺代わりとなるものなのだ。もちろん、クラブにずっといてくれればさらによかっただろうが、「私にとって大事なことは、現状についてキヨが話してくれることなんだ」と指揮官は語る。日本代表チームのクオリティーが非常に高いと知るからこそ、「そこにいられるだけで選手にとっては幸運なことだ」と話す。

自身に高い要求を突きつけ、プレッシャーをかける

 移籍当初はホームシックもあったが、妻と息子が一緒におり、いつも元気づけてくれることもあって、清武はニュルンベルクになじんでいる。チームメートとはフランケン地方のあいさつを交わし、ドイツ語も上達。今ではチームマネジャーともドイツ語で電話をしているほどだ。

 心優しい清武はピッチの脇ではファンに応対し、一方グラウンドの上では強い意思を示す。技術的なミスや乱れたパスには、怒りをあらわにし、FKやCKのチャンスを無駄にすることにもいら立ちを感ている。日本語で独りごちることもある。自分自身に非常に高い要求を突きつけ、自らにプレッシャーをかけるのだ。

 時に自分の才能を正しく評価していないことがあると、ディーター・ヘキンク前監督は清武に話していた。その前指揮官も、代表戦の遠征の後には、よく清武をベンチに置き、彼が不満そうにしていることも、ままあることだった。

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著者プロフィール

1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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