甲子園で話題となったルール問題を考える=周知徹底と運営の改善を

松倉雄太

知らない指導者も 特別規則「バントの定義」

 次にカット打法について。
 花巻東の千葉翔太(3年)の打法が準々決勝後に、高校野球特別規則の「バントの定義」に触れるのではないかとして指摘を受けた。そのチームは準決勝で敗れたが、決勝戦の日にも多くの抗議電話が大会本部にあったという。

 是か非かということは、ここではあえて問題にはしない。
 ポイントは、指摘を受けたチームの監督と部長が、「バントの定義を知っていますか?」という質問に、「知りません」と答えたことにある。
 過去にさまざまな経緯があって、高校野球特別規則に加えられた「バントの定義」という記述。今回、甲子園に出場していないいくつかの学校の指導者や指導経験者に取材してみたが、「知らなかった」という回答が複数あった。甲子園ベスト4の指導者でも知らなかったことだけに、全国的に今回の事が大きく報道されてから「初めて知った」という人も多くいたのではないだろうか。
 時代が移り変わる中で、日本高校野球連盟も定期的にルールなどの周知徹底に努めてきた。それでも「知らなかった」という指導者がいたのは事実なのだ。

 これは高校野球全体で大きな案件として取り組む必要があるように感じる。まずはルールブックなどをしっかりと見直すこと。知っているようで知らないことがまだまだあるはずだ。そして、疑問点が出てくれば積極的に質問をすること。さらに高校野球特別規則だけのルールがある以上、小学校や中学校の指導者も熟読することも肝心だ。

 そして、大会本部、審判部といった運営側の改善も絶対に必要な要素。今回のように地方大会から全国大会へと進むチームは何試合もこなしている。選手を分析するデータが出るのと一緒で、審判でしか掴めない特徴も出てくるはずだ。しかし、地方大会から全国大会へと進む過程で、地方から全国への情報の伝達がほとんどされていないという事実を聞いた。基本的にマイナスになる情報は伝えたがらないのだという。

 甲子園練習を審判部が公式に視察するということも行われていない。投手の二段モーションなど、チェックできる項目はたくさんある。だからこその改善をお願いしたい。審判部全員でなくても、責任者の何名かが甲子園練習を見ると言うことは難しいことではないはずだ。

 今回、カット打法で「バントの定義」を指摘された千葉は、準決勝で自分のスタイルが貫けずに涙した。もし、これまでの野球人生でやってきたことが突然、全否定されればどんな気持ちなるか思うと、胸が痛む思いである。泣き過ぎて過呼吸にまでなったとも聞いた。今後、心の傷が残らないようにと祈るばかりだ。

<了>

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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