ウルグアイ戦に柿谷、豊田を抜擢した狙い=W杯へ向け“意外性”を求めた変革

北健一郎

従来の役割に合致する豊田の1トップ

典型的なセンターFWタイプの豊田。ザックジャパンの1トップにハマりやすい選手と言える 【Getty Images】

 これらの特徴を踏まえて豊田と柿谷、それぞれを起用した場合のプレーをシミュレーションしていこう。

 豊田を起用した場合、1トップのプレーはこれまでのザックジャパンと大きく変わらないのではないか。ザッケローニ監督は1トップに“攻撃の深さを作る動き”を求めてきた。1トップが最前線でセンターバック(CB)と同じ高さに位置取り、相手のDFラインが押し上げてこられないようにする。

 この狙いは中盤の選手たちのスペースを確保することだ。ボールをポゼッションしながら相手を押し込み、2列目の選手がバイタルエリア(DFラインとボランチの間のスペース)に入っていくのが、ザックジャパンの攻撃時のメカニズムだった。もしも1トップがボールを受けるために下がってくると、マークしているCBが押し上げてくるので中盤のスペースが狭くなってしまう。

 ザックジャパンの1トップは自分がボールに触れなかったとしても、センターバックをくぎ付けにするという役割を担っているが、こうしたプレーは典型的なCFタイプでなければ難しい。豊田はサガン鳥栖のプレーを見ても分かるように、中盤に引いてきてパス回しに参加するタイプではない。そういう点では、ザックジャパンの1トップにハマりやすい人材といえる。

 また、前線から献身的にプレッシングをかけられるところも前田と重なる。左サイドハーフの香川が頻繁に中に入ってくるため、1トップの選手は守備時に左サイドのカバーに回ることが求められる。こうした役割を豊田はしっかりとこなせるのではないか。

新たなオプションをもたらす柿谷

 それでは、柿谷が入った場合はどうか。柿谷が入った場合はチームのプレースタイルに明確な変化が起こることが予想される。柿谷は前田や豊田のようなフィジカルコンタクトの強さや、前線からの献身的なディフェンスを得意としているわけではない。ザッケローニ監督が柿谷を呼んだ理由は別のところにある。

 柿谷1トップによる最大の変化はズバリ、カウンターというオプションができること。柿谷のDFラインの背後を突く動き出し、ファーストタッチでボールを思い通りのところにコントロールする技術はカウンター戦術との相性が良い。東アジアカップの韓国戦で青山のロングボールを受けて決めたゴールは典型的なパターンだろう。

 これまでザックジャパンは自分たちがボールを持っていることを前提としたスタイルを作ってきたが、自分たちがボールを持っていないときのオプション作りも必要になる。コンフェデ杯ではイタリア戦で打ち合いの末に4失点(3−4で敗戦)したが、攻撃的なスタイルのままでは同じような試合をW杯で繰り返すことになりかねない。

 ザッケローニ監督は8日のメンバー発表で「W杯で相手に的を絞らせないような意外性のあるチームを作っていきたい」と1年後に向けたビジョンを語っていたが、ポゼッション型にもカウンター型にも臨機応変にスタイルを変えられるようになれば、スカウティングをしづらくなるのは間違いない。

ウルグアイ戦で明確になる今後の指標

 3連敗という結果に終わったコンフェデ杯は日本に大きな“宿題”を突き付けることになった。このまま攻撃的なスタイルを貫くのか。それとも、守備に軸足を置くのか――。

 ザッケローニ監督は記者会見でこのように語っている。

「われわれはまず自分たちがゴールを狙うチーム。攻撃的にいくチームというのは、当然失点のリスクが存在する。そのリスクを踏まえて、失点しても相手より多く奪うという意識がチームの根底にある」

 あくまでも攻撃的なスタイルで戦うことを表明したザッケローニ監督だが、その本音はウルグアイ戦のピッチで明らかになるかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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