高野氏、朝原氏らが分析!桐生らは決勝に進めるか=世界陸上男子100m展望
決勝進出が期待される桐生と山縣。記録としても日本人初の9秒台突入なるか注目だ 【築田純】
今季は若手の躍進もあり、大きな期待がかかる日本男子短距離チーム。同種目には、日本歴代2位となる10秒01を記録した桐生祥秀(洛南高)、昨年のロンドン五輪で準決勝進出を果たした山縣亮太(慶応大)がエントリーしている。
世界に目を向けると、やはり“世界最速の男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の走りに注目が集まる。大会前に起こったドーピング問題で、最大のライバルと目されたタイソン・ゲイ(米国)らが欠場となったが、その中でボルトがどんな“伝説”を残すか?
スポーツナビでは、男子400メートルの日本記録保持者でもある東海大の高野進教授、北京五輪男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治さん、スポーツライターの加藤康博さんの3人に、男子100メートルの見どころなどを語ってもらった。
ボルト選手の強くて美しい走りに期待(高野進)
男子100メートルに臨む日本人選手に関してですが、まず山縣選手の特徴は、低い姿勢から加速に乗せていき、トップスピードを迎えても、その後の減速が少ないところです。普通は50メートル辺りでトップスピードに乗り、そこからスピードが落ちていくのですが、山縣選手の場合は、そのスピードを持続できるという特徴があります。走りはコンパクトに足を置いていく感じで、ギアをオートマチックに上げていく。知らず知らずのうちに加速が進み、その加速を維持できるイメージです。
メンタル的にもマイペースなところがあり、周囲の影響を受けづらい。肝が据わっていると言いますか、良い意味で自分の世界を持っている選手です。世界大会だからといって気が散ることがないので、自分らしい走りを貫けるのではないかと思います。
桐生選手については、山縣選手と同じで安定した走りをしていると思います。加速感が良く、スタートではすり足で出ていき、小さく前傾を保てる。それに基礎的なエンジンができている印象です。体幹が強く、体の中心から力を出せる走りができています。基礎ベースができているので、普通の高校生とは全然違う体の強さがありますね。桐生選手には、昨年のロンドン五輪で山縣選手が出したぐらいのタイム(10秒07)を出してほしいです。
ただ、直前にインターハイがあって、かなり体力的にしんどいとは思います。高校生にとってのインターハイは五輪のようなもので、そこにピークをもっていったはず。ただ余裕を持って圧勝しているので、燃え尽きてはいないと思っています。体が疲れているのは当たり前ですが、そこは高校生という若さで乗り切り、世界選手権でも同じ力を出せる可能性は十分あると思います。いま持っている力を出し切れば、本来の彼の実力である10秒10台、さらにその上の記録が狙えるでしょう。まずは彼が考えた通りの走りができ、自分のベストを世界の舞台で出せるように頑張ってほしいですね。
海外勢に目を向けると、世界中にいる10秒00前後で走る選手たちが、『ここがチャンス』と思って決勝を狙ってくるはずです。ドーピングの件でビッグネームがいないだけに、相当な欲を持ってくるはずなので、新星が現れるかもしれませんね。ベテラン勢が意地を見せるか、山縣らのような若い世代が活躍するか注目です。
それでも今回の見どころはやはりボルト選手でしょう。ライバル不在で拍子抜けしているかもしれないですけど、前回の世界選手権(2011年テグ大会)ではフライングもしていますし、今回は必ず勝ちに来ると思います。やはり戦国時代の接戦よりも、スーパースターが圧倒的な実力を持ち、憎らしいくらいに強い方が、チャレンジャーたちとの戦いが魅力あふれるレースになると思います。
大舞台で悠々と走る姿がボルト選手の最大の魅力、強くて美しい走りを期待したいですね。