野口、福士らのメダル獲得の可能性は?=有森氏らが語る世界陸上女子マラソン展望

構成:スポーツナビ

粘り勝負なら晴れることを祈りたい(金哲彦)

榎本氏が「昔の体力が戻ってきている」と分析する野口。有森氏も「実力は一番高い」と期待を寄せる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 現地モスクワに来まして、日本女子選手たちのレース前会見を見てきました。3人とも仕上がりが良く、コメントも力強かったです。

 野口選手はアテネ五輪金メダリストという実績もありますので、彼女に対する期待は大きいですね。今まで大舞台で経験したことを生かし、安定した力を出して上位を目指してほしいです。もちろん彼女の持つ日本記録、2時間19分台で走ることは気象条件を見ても難しいですが、ここ一番での安定した走りを見られるのではないかと思います。
 木崎選手も仕上がりは良いようで、調子は良さそうです。昨年、ロンドン五輪を経験し、そのリベンジという気持ちで臨んでいます。当時と比べると一回り大きくなった印象で、まだまだ世界の強豪と対等とは言えませんが、今回は胸を借りるつもりでレースに挑んでほしいです。
 福士選手は会見でも明るく、いつもの“福士節”がさく裂していました。ただ、マラソンでの成功例が少ないこともあり、まだまだ未知数な部分も多いです。特に今回は初めての夏のレースということで、練習でできていたことを本番で出せるかどうかが課題になるでしょう。今までのレースの失敗を見ても分かる通り、マラソンはスピードだけでは勝負できないところもありますので、そこを克服できるかどうかですね。

 現地に来まして本番のコースを一部見てみたのですが、やはり起伏がフラットで、ぐるぐる回る周回コースという感じです。ただ、道路が硬い印象なので、足への負担は大きいのかなと思います。気温に関しては、だいたい25、26度という条件になりますが、これはマラソンランナーにとってはかなり過酷です。日差しも強いですし、暑さとの戦いになると思います。ただ1週間前から現地に来た人に話を聞くと、雨が降るとかなり冷え込むという話です。もし粘り勝負に持ち込むのであれば、晴れることを祈りたいですね。

 今大会への期待ですが、現在、日本女子マラソンが停滞していることもあるのですが、その中で日本の本当のトップ3が選ばれました。五輪金メダルの実績を持つ野口選手、日本トップクラスのスピードを持つ福士選手、若手の成長株である木崎選手と、それぞれ持ち味が違う3人がレースに挑むことになります。日本の持つすべてのカードのトップということもあるので、3人のうちの誰かが少なくても入賞、頑張ってメダル獲得を達成してもらえればと思います。

特徴を生かしたレース戦略を(榎本靖士)

 最近の日本女子マラソンは少し勢いが落ちたと言われていますが、それは社会の影響により状況が変わったもので、自然科学の領域で考えると、特に変化はなく、マラソンに強い選手の特徴というのは、すでに語られているものと変わりありません。

 今回は野口選手、木崎選手、福士選手の3人が出場しますが、特徴は皆さんが知っての通りだと思います。先日、マラソン日本代表選手を集めて行われた体力測定で、女子では野口選手が参加しました。その結果を見ると、データとしては1キロ3分20秒で走る力を持っており、2時間20分前後のペースでマラソンを走り切れる、昔の体力が戻ってきているようでした。
 福士選手に関しては、もともとスピードを持っている選手ですので、1万メートルのペースをどれだけマラソンに合わせて持久型に持っていけるかがテーマです。世界記録保持者だった英国のポーラ・ラドクリフ選手も、トラックのスピードを維持しつつ、マラソンの持久係数を上げて力をつけました。これは練習で距離を走れば上げられるものではなく、体が持つかどうかの資質に左右される部分でもあります。
 長距離を走る選手にとって、「最大酸素摂取量」という、どれだけ酸素を取り込めるかの機能と、効率的に運動エネルギーに変える「ランニングエコノミー」の関係が重要です。自動車で言うと、酸素摂取量が排気量で、エコノミーが燃費と考えて下さい。野口選手はランニングエコノミーが高いことはよく知られており、福士選手の場合は、最大酸素摂取量が高いのでスピードがあるのだと思います。ただ福士選手のフォームを見ているとロスの少ない動きをしているので、効率よく前に進めており、ランニングエコノミーも高いと思われます。福士選手に関しては、エネルギーが最後まで残るかどうかがカギになると思います。
 木崎選手は練習量が多く、粘り強い走りをする選手ですが、体質として糖をあまり使わず、脂肪を使って走る能力が高いのではと思われます。糖を最後まで残せることで粘り強い走りができるのだと思います。ただ、レース展開によっては、途中でスピードを上げられた時に、ついて行けるかどうかが勝負の鍵になりますね。

 本番でのレース展開に関しては、2、3周目から駆け引きが始まって、スピードが上がるかもしれません。そう考えると地の利を知っているロシア勢は有利です。ただ、その中で選手がどう戦略を立てるか。日本選手には是非、思い切って最初から勝負に出てほしいところです。日本人選手がメダルを取れるかどうかは30パーセントぐらいの確率かと思われますが、チャンスは十分にあると思います。

<了>

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