3冠王者バイエルンとの差をいかに埋めるのか?=ドルトムント、シャルケ、レバークーゼンの場合
シャルケの補強に奔走するヘルトSDの思惑
今季のシャルケはヤン・フンテラールでさえ、ポジションは保証されていない 【Getty Images】
ドイツ代表であるユリアン・ドラクスラーは昨季終了後、レアル・マドリーかマンチェスター・シティ、もしくは地域のライバルであるドルトムントに移籍するかもしれなかった。しかしこのプレーメイカーは、大金にも首を縦に振らなかった。自身のクラブに忠実であり続け、これまで以上にクラブの顔としての存在感を高めている。とはいえ「シャルケの顔」は他にもいる。DFのベネディクト・ヘベデス、サイドバックのセアド・コラシナツ、オフェンスでもマックス・マイアーにクリスティアン・クレメンスと「高貴なる青」の未来を担う選手がそろう。
さて、ヘルトSDはサッカー界ではやり手として知られ、トリックも使ってボーフムからレオン・ゴレツカを手に入れた。ボーフムのピーター・ノイルラー監督は、この18歳を「おそらく50年に1人のドイツの才能」と称賛。「中盤の中央でのユーティリティー性にあふれ、信じられないようなダイナミクスと非常に高い戦術眼を持つ。彼の年齢で、あれほどの選手を見たことがない」と褒めちぎっていた。ゴレツカはシャルケで、中盤の守備的なポジションでの競争をヒートアップさせている。新シーズンに臨むシャルケにおいて、チーム内競争は概して目新しいものと言っていい。懐疑的な視線が注がれる中でスタートを切ったが、今やイェンス・ケラー監督は舞台裏でのマネジメントに自信を持ち、プレシーズンの出来と自身のチームに満足感を得ている。オーストリアのクラーゲンフルトのキャンプを終えて、指揮官は「控え選手なんてものはいない」と語り、「出場する選手が、その時点でベストの選手ということだ」と今季の姿勢を明らかにしている。
今季、ストライカーのクラース=ヤン・フンテラールでさえ、ポジションは保証されていない。ヘルトSDは800万ユーロ(約10億4000万円)で、マインツからアダム・サライを連れてきた。シャルケのシステムに、この完成されたアタッカーは完ぺきにフィットするだろう。それはサシャ・リーターも同じことだ。日本代表の内田篤人の競争相手として、このサイドバックはフルハムからやって来る可能性もあったが、交渉は合意に達することはなかった。その代わり、コンディションを取り戻したティム・ホークランドが内田にプレッシャーをかけることになる。
ヘルトSDが電話をかけ続けているのは、あと1カ所だけ仕事が必要なポジションが決まっていないからだ。シーズンスタートの直前に、ミシェウ・バストスがUAEのアル・アインへと移籍した。この左サイドの攻撃的なポジションで、代役を探さなければならない。獲得リストには、バイエルンのジェルダン・シャチリの名があったが、先方からの回答は「拒否」。シュツットガルトのイブラヒマ・トラオレに関しても同様だった。
だが、彼には別のアイディアがある。「レアルやバルサ、またはチェルシーでも、電車に乗れない選手は出てくるものさ」。今季のシャルケは、将来を約束された若者たちによって構成され、ベテランと各国代表クラスの選手たちによって味を整えていくことになる。そのためにシーズンが開幕するまでの間、ヘルトは穴埋め作業に奔走し続けることになるだろう。ディフェンスのスター選手、クリアコス・パパドプロスがイングランドへ向かうとしても、ヘルトは準備万端だ。ライバルのドルトムントから、CBフェリペ・サンターナを手に入れてあるからだ。
シャルケが、ドルトムントとの国内での地位を逆転させるのは、簡単なことではないだろう。だが昨季、シャルケは2度のルールダービーを制している。「高貴なる青」を愛するファンにとって、バイエルン追撃の一番手はシャルケである。そして、実際にそれほど無茶な話でもないのである。
二頭体制を解消したレバークーゼンの最大のタスクとは?
今季、成功と衝突に彩られた時間を経て、サミ・ヒーピアとサシャ・レバンドフスキが二頭体制を解消。指揮官はヒーピアのみとなった。これがレバークーゼンにとって良い方向に働くかどうかは、今後を見守るしかない。昨季のポジティブな歩みは、レバンドフスキによるところも大きかったのだが、過小評価されることも少なくなかった。彼が練習メニューを考えて、選手個々の成長を後押しした。中盤に守備的な3人を配する4−3−3を考案したのも彼で、それこそがレバークーゼンの勝利の方程式となった。
特に「背番号6」のポジションに、レバークーゼンは手厚い準備を施している。今季から背番号10を背負うエムレ・カンという選択肢を新たに得たのだ。クラブは彼に、トニ・クロースと同じ道を歩んでほしいと考えている。クロースはかつて、レンタルで加わったレバークーゼンでブレークを経験した。レバークーゼンとカンは2017年までの契約を結んだが、バイエルンは買い戻しのオプションを確保している。また、17歳のレビン・エツトゥナリも、クラブにとっては大きな驚きとなった。ウーベ・ゼーラーの孫である彼は、当初はユースチームを強化する存在だと見られていた。だが数度のテストマッチに起用されると、関係者が「!」マークを出す場面がいくつか見られた。
最終ラインから、カルバハル(→レアル・マドリー)、カドレツ(→フェネルバチェ)、シュワーブ(→シュツットガルト)が去っていった。とても役立つオールラウンダーの細貝萌もヘルタ・ベルリンへと移籍した。昨季のレバークーゼンの輝きの源は守備である。失点数もバイエルンに次ぐ少なさだった。だからこそディフェンス面は、ヒーピアにとっての最大のタスクにもなる。
ジュリオ・ドナーティは、イタリアでも有数の守備のタレントだった。この23歳は、インテルでの役割に反旗を翻すことを決意し、セリエAをこき下ろす。右サイドバックとしてカルバハルの後釜という大役に挑戦するが、守備の新たなホープとなる可能性は十分にある。フェネルバフチェからやって来たロベルト・ヒルバートは、さらに経験豊富なオプションとなり得る。同様にエミル・スパヒッチも、守備陣に上手くはまることだろう。昨季、セビージャでプレーしたこの32歳のボスニア人は、非常にユーティリティ性の高い選手だ。左サイドでは、150万ユーロ(約2億円)でPAOKから加わったコンスタンティノス・スタフィリディスが、早くも自身も選択肢の1つであることを示している。放出が目立ったレバークーゼンだが、素早く新戦力を融合させる様子も見せてはいる。第1ラウンドでは、この点がキーポイントの1つとなるだろう。そしてヒーピア監督もまた、査定をされる1人なのである。
レバークーゼンにとっての最大の補強が、早々に完了していたことは、ソン・フンミンの加入直後にアンドレ・シュールレのチェルシー移籍が承認されたことからも明らかだ。シュールレより2歳若い韓国代表のソンは、1000万ユーロ(約13億円)でハンブルガーSVからやって来た。もちろん、攻撃面でのシュールレの後継者となる。ソンはレバークーゼンで大きな一歩を踏み出すかもしれない。クラブはさらに、ロビー・クルーズという新戦力も前線に加えている。
選手の幅という点において、このチームは上手くできているように見える。だが、多くの移籍は今回、長期的視野に立ち、将来的に層の厚くすることも考慮している。新加入選手の平均年齢は、22.7歳。もしレバークーゼンが、新戦力をすぐさまスムーズに融合させることができたなら、昨季のパフォーマンスを再現してCL出場権をつかむことも可能かもしれない。だがそれよりも、今季は厳しい道程が待っているという見方が、より現実的であろう。
<了>
(翻訳:杉山孝)