瀬戸大也、苦しみ乗り越えてつかんだ栄冠=“特別なスイマーではない”19歳が快挙

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「最高の泳ぎができた」

ゴール後に瀬戸(左)の優勝を祝福する萩野(右) 【Getty Images】

 それでも、対抗意識はもちろんある。萩野は今年4月の日本選手権で史上初の5冠を達成。瀬戸は個人メドレーの代表権を勝ち取ったが、直接対決では大差をつけられて敗れた。大会後のメンバー発表会見では、萩野に多くの記者が群がる一方で、瀬戸のもとには数人の記者しかいなかった。今大会でも、萩野は初日に400メートル自由形で銀メダル、200メートル個人メドレーでは瀬戸に競り勝ち、こちらも銀メダルを獲得している。注目されるのはつねに萩野。引き立て役に回らざるを得ない状況を、瀬戸が良しとしているはずはなかった。

「今大会、公介がすごく目立っていて、自分も活躍したかった。悔しくて、最後に一発逆転を狙っていた」

 その言葉通り、400メートル個人メドレーでは、予選から状態の良さをうかがわせていた。気力と体力が充実し、泳ぎの感覚とタイムも一致。萩野を上回る4分12秒96のタイムで全体2位通過を果たした。一方の萩野は4分13秒80で4位。前日は競技がなく、休養に充てていたが、一日休んだことで緊張の糸が切れたのか、泳ぎにいつもの精彩が感じられなかった。

 そして迎えた決勝。前半から飛ばした萩野に対して、瀬戸は「落ち着いていこうと思っていた。前半はそんなに飛ばさなくてもしっかりタイムを出せる」と踏んでいた。思惑通り、前半を2位ターンすると、その後もしぶとくトップを行く萩野を追い、残りの50メートルで逆転してみせた。「最高の泳ぎができた」。自分の名前が電光掲示板の一番上にあることを確認した瀬戸は、大きくガッツポーズを作りながら、満面の笑みを浮かべた。

日本人初の快挙を達成

「情けない。金メダルを取るということを一番に掲げていて、それを達成できると思ったので、多種目に出たけど、これじゃ本末転倒。悔しい部分もあるけど、これが実力だと捉えたい」

 瀬戸に敗れた上に、終盤の失速で5位に沈んだ萩野は、これまで見せたことがないような険しい顔で、レースを振り返った。萩野にしてみれば、自身の得意種目で、ロンドン五輪金メダリストのライアン・ロクテ(米国)が出場しない400メートル個人メドレーで敗れたのは、相当なショックだったに違いない。大会通じて計17回も泳ぎ、誰より日本チームに貢献してきた18歳にとっては残酷な結末だ。しかし、萩野はライバルであり、親友でもある瀬戸を称賛することを忘れなかった。

「こういう舞台で自己ベストを更新する大也は素晴らしいと思う。自分にはまだまだ実力が足りなかった。大也が金メダルを取ってくれたのが救い。逆にそれで悔しい思いも増えたけど、この悔しさが自分を強くしてくれると信じている」

 瀬戸の目標は、萩野とともに表彰台に立ち、日の丸を2つ掲げること。今回はその目標の実現にあと一歩まで近づいたが、かなわなかった。

「並んでいたので公介と一緒に表彰台に上れると思っていた。でも公介が最後に失速してしまって……。いつか公介とともに表彰台に上がりたいから、自分もこの結果に満足せず、これからもやっていきたい」

 幼いころから切磋琢磨(せっさたくま)してきたライバル関係も新たな局面に突入する。これまでは萩野がつねに先を行っていた。しかし、遅れていた瀬戸が、萩野より先に表彰台の頂点にたどり着いたことで、今後はさらにレベルの高い争いが続いていきそうだ。梅原コーチは教え子の成長に目を細める。
「大也を小学5年のときから指導しているけど、当時はそこまで特別な選手じゃなかった。ましてや世界選手権で優勝するなんて予想もしていなかった。ただ、昔から努力は人一倍する子どもだった。まだ会っていないけど、『びっくりした』という言葉をかけてあげたい」
 個人メドレーでの金メダルは、五輪を含めた世界大会では日本人初の快挙。その偉業を成し遂げたのは、ライバルに遅れをとり、悔しさを乗り越えた“決して特別な選手ではない”19歳の男だった。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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