入江陵介へ、引き際を考えるのは早すぎる=世界水泳バルセロナ2013

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これまでため込んでいた気持ちが……

予選では調子の良さをうかがわせた入江だが結果を出すことができなかった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 そういう状況で迎えた世界選手権。2日目の100メートル予選から登場した入江は、調子の良さをうかがわせていた。予選、準決勝を危なげなく4位で通過し、メダル獲得への期待も高まった。しかし決勝では序盤の出遅れが響き、53秒29のタイムで4位に終わる。

 レース後には、「メダルを取ってきた種目なのでショックはある。金を取らないとやっぱりエースじゃない。若い選手がいっぱい出てきて、どんどん自分のポジションが下がってきたら、胸を張れないし、自分の存在意義が分からなくなる」と悲壮感を漂わせていた。それでもまだこの時点では得意とする200メートルが残っており、「もう1回チャンスがあるし、自覚を持っていきたい。金メダルを取ってこそ、つねに日本を引っ張っていける選手。そこにこだわっていきたい。ここで終われないという気持ちがある」と前向きな発言もあった。

 だが、心の支えにしてきた200メートルで敗れた瞬間、これまでため込んでいた気持ちが瓦解してしまう。
「五輪が終わってからずっと肩の痛みも取れなくて、泳ぎもはまらない状態で来てしまった。コーチとぶつかることも多かったし、誰の言うことを信じればいいか分からないことも多かった。若い選手がすごくいっぱい出てくる中で、引き際を考えることも多かったし、それは今回も同じ。若い選手が出てきて、日本新記録(萩野)を出したり、自由形で準決勝(塩浦慎理=中央大)に残ったり、すごく頼もしく感じて……。自分の役目が何なのか分からないこともある」

 大会前には3年後のリオデジャネイロ五輪に向けて、意義のある大会にしたいと笑顔を見せていた。しかし、憔悴しきった入江の口からは未来に向けた言葉は出なかった。

「正直いまはリオを考えられない。今回の結果も結果だし……。一般の人は結果だけを見る人がほとんど。そういう人から見たら僕はもう落ちてきている選手というふうに見られている。旬が過ぎた選手というふうに見られていると感じる」

巻き返しのチャンスはまだ残されている

 結果として入江は、09年のローマ大会、11年の上海大会と2大会続けて獲得してきた200メートルでのメダルを逃してしまった。とはいえ、これでロンドン五輪での偉業が色あせることは決してない。

 日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは、入江をこう擁護する。

「世界選手権と五輪のメダルは違う。五輪のメダリストはそれなりに期待される。『メダルを取って当たり前、勝って当たり前』という期待をかけられるわけで、それをどうとらえるか。それを糧にして頑張るのか、それがプレッシャーになるのか人それぞれだと思う。入江君は本当にすごく才能のある選手。自分の水泳をもっと追求してほしいと思う」

 確かに今大会では若手の躍進が著しい。萩野は8月2日時点で400メートル自由形と200メートル個人メドレーで銀メダルを獲得。入江と仲が良い瀬戸大也(JSS毛呂山)は初の世界選手権出場だが、200メートル個人メドレーで決勝に進出し、自由形の塩浦は日本人として初めて100メートルで準決勝に出場した。しかし、入江のような年齢的に中堅の選手はチームに必要不可欠。以前、チームの中で意識する役割について尋ねたとき、入江はこう答えてくれた。

「代表に選ばれるのが初めての選手もいるし、ずっと代表にいる選手もいる中で、壁を作らないように、若い選手とも年上の選手とも交流するようにしていた。誰か特定の人と一緒にいるというよりは、いろいろな人と一緒にいるように意識している」

 もちろん泳ぎの部分でもまだ伸びしろはある。今年から強化しているバサロキックは、ようやく形になりつつある。メダルという結果のみで判断すれば、今大会の入江は存在意義を証明できていないと考えるのかもしれない。しかし、最終日には400メートルメドレーリレーにも出場する。巻き返しのチャンスは残されている。入江はまだ23歳。引き際を考えるのは早すぎる。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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