自由形の歴史を動かした塩浦慎理の躍進=世界水泳バルセロナ2013

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「日本人だからできないというわけではない」

世界選手権では日本人初となる100メートル自由形での準決勝進出を果たした塩浦。決勝には届かなかったが、さらなる活躍が期待される 【Getty Images】

「自由形は今回が転機になる」。これは世界選手権の競泳初日に、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチが残した言葉である。この日、まず男子400メートル自由形で萩野公介(東洋大)が銀メダルを獲得。さらに男女の4×100メートルフリーリレーも決勝に進出した。とりわけ男子に関しては、史上初の世界選手権での決勝進出という快挙だった。第二泳者の小長谷研二(コパンSS)が「日本のスプリンターに夢を与えることができたと思う」と語れば、塩浦慎理(中央大)も「最高だった。今度は個人でもこうした世界の強豪と戦えるようになれれば」と目を輝かせた。決勝では男子8位、女子は7位に終わったものの、日本競泳界にとっては大きな前進と言えるだろう。

 そして萩野である。個人メドレーを専門としながら、400メートル自由形でも日本新記録(3分44秒82)をたたき出し、表彰台に立ってみせた。同種目でのメダル獲得は五輪も含めた世界大会では1960年ローマ五輪の山中毅以来である。萩野は続く200メートル自由形でも決勝に進出。惜しくも5位でメダルを逃したものの、日本人が自由形でも世界で戦えることを示した。

 自由形はこれまで、手足の長さやパワーといった日本人に欠けている特徴が結果に反映されやすいということで、メダル獲得は難しいとされてきた。しかし、だからと言って強化を怠るわけにはいかない。日本水泳連盟は、3年後のリオデジャネイロ五輪において、自由形でのメダル獲得を目指している。そのために、自由形の選手を集めて合宿を行うなど、レベルの底上げを進めてきた。「(中国や韓国といった)アジア人が活躍している。日本人だからといってできないわけではないし、背が大きい・小さいは関係ない」。萩野はそう語り、身を持ってそれを証明してみせたのだ。

100メートルで初となる準決勝進出

 そして競泳4日目となった7月31日、またも歴史が動いた。100メートル自由形に出場した塩浦が、世界選手権では同種目で日本人初となる準決勝進出を決めたのだ。予選7組で登場した塩浦は23秒18のトップで前半50メートルを折り返すと、そのまま同組首位、全体でも4位となる48秒52という好タイムで予選を通過。「まずまずの出来だったと思う。だいぶ落ち着いて自分のペースで行けた。準決勝ではタイムを上げないと残れないと思うので、タイムを上げたいと思う」と意気込む姿は実に頼もしかった。

 決勝進出への期待も十分膨らんだが、準決勝で惜しくも世界の分厚い壁に跳ね返された。前半を23秒09と予選よりも速いペースで入りながら、後半に失速。結果的には48秒51と予選より0.01秒記録を伸ばしたものの、全体10位で敗退が決まった。「勝負していくには、前半から積極的なレースというのが絶対だと思っていた。50メートルまでは力の感覚もとても良かったと思うけど、最後にペースが落ちてしまった。予選でも同じことがあったので、これが今後の課題だと思う」。そう悔しさをにじませた塩浦だったが、同時に晴れやかな表情も見せた。

「緊張よりもこのレースへのワクワク感があって、すごく楽しかった。今後はこのワクワク感も大事だけど、あの中で対等に戦えるようにしたい。自由形を応援してくれる人がたくさんいるので、期待に応えられるように頑張りたいと思う」

 平井コーチも、塩浦の活躍を手放しで称賛する。

「自由形は日本競泳界にとって長年の悲願。メダル獲得や入賞したわけじゃなく、日本記録が出たわけじゃないけど、ものすごく評価したい。チームの中で自由形が伸びてきているんじゃないかという感じがしているし、何より塩浦も、指導する高橋雄介コーチもそう感じていると思うので、これを大いに評価して、次につなげるようにしてほしい」

さらなる記録の更新も期待できる

 もちろん塩浦もこの結果に満足しているわけではない。塩浦も言うように「準決勝で初めてと言われるようではまだまだ」だし、目標とする決勝進出やメダル獲得までには、大きな壁が存在する。47秒台を当たり前のように出せるようにならない限り、勝負にはならないだろう。そしてそれは塩浦も認識している。

「決勝に残って当然と言われるくらいになって、そこから勝負できるレベルにならないといけない。前半は良い泳ぎができているので、後半の呼吸のタイミングだったり、テンポを上げるようにすれば、もう少しタイムは上がると思っている」

 塩浦は今大会、400メートルフリーリレーを含めて自己ベストを3回更新している。最終日には400メートルメドレーリレーにも出場する予定だ。現在の調子を維持すれば、さらなる記録の更新も期待できるだろう。そしてアンカーを務めることになる塩浦の活躍次第では、400メートルメドレーリレーでも金メダル獲得が射程圏内に入ってくる。前述のように今大会は自由形にとって転機となる。そしてその中心にはまぎれもなく塩浦がいる。それだけの可能性を塩浦は見せているのだ。大会最終日、塩浦はここで得た自信と悔しさを糧に、どのような泳ぎを披露してくれるのか。いまからそれが楽しみでならない。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)
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