風間理論に適応し得点を量産する大久保=J1通算100得点の偉業を語る

江藤高志

無駄に動かないから体力を温存し冷静さを保てる

無駄に動かないからゴール前でも冷静でいられるし、DFとの駆け引きもゲームのようで楽しいと語る大久保 【スポーツナビ】

 そうやって無駄に動かないことで、体力を温存し冷静さを保つことができる。これが大久保にとっては大きな意味を持つと話す。

「だからたぶん、ゴール前でいろんなイメージが出てくる。体力が残っているから考えられるし、選択肢が増えています。アイデアがババっと出てくるから、やっていても楽しいんです」

 そんな大久保の言葉を証明したプレーがある。前半戦最後の試合となった第17節の大宮アルディージャ戦でのことだった。首位を相手にしたこの試合は、大久保の今季12点目もあり2−2のまま後半ロスタイムを迎えていた。示された3分のアディショナルタイムが経過し、プレーが途切れればそこで試合終了という場面。大久保はコーナーキックからのセカンドボールをタッチライン際で拾い、ゴール前にクロス。そこから「来るかな?」との予感もありゴール前に移動した。するとペナルティーエリア内の角度のない位置にいた大久保の足元にボールが転がるのである。

「最初はシュートを打とうと思った。でも、『これもったいない』と考え直しました。あれだけディフェンスがゴールの中にいたらどこかに当たってクリアされてしまいかねない。ゴール正面にはレナトとか3人くらい(川崎の選手が)いたので、そこに流し込みました」

 極限まで時間とスペースが削り取られる中、冷静に状況を判断し、そしてレナトにパスを出す。このパスが結果的に川崎に勝利をもたらすPKを生み出したのである。

プレーも私生活も充実する関東での生活

 川崎でのサッカーにフィットする大久保は、対戦する若いDFとの駆け引きも楽しくて仕方ないと言う。マーカーを引き連れてポジションを変えたとき、その選手を相手に「大丈夫? そこのスペース空くよ?」と話しかけるという。その言葉を受けた相手選手が大久保のマークを外すと、今度は前を向いてドリブルで仕掛ける。「そうすると、若いDFは混乱するのが分かるんです。サイドバックもそう。中に絞っていたら『絞り過ぎじゃないの? サイドのスペースは俺らも狙っているからね』と話しかけるんです。そしたら、今度、そのスペースを気にしてセンターバックとの間が空くんですよ。そしたらそこにスパーンってパスが出てくる。もう、ゲームの世界ですよ」と快活に笑った。

 長年持ち続けた印象とは異なり、意を決して住み始めた関東は、“ごみごみした都会”とは別世界だった。豊富な緑や静かな住環境がある一方、ちょっと足を伸ばせば家族連れで楽しめる施設も多い。そんな関東での生活について「全然問題ないです」と話す大久保は、サポーターを含めたクラブの環境にも満足しており、プレー以外の部分でもいい状態にあるという。

 安定した日常生活を前提に、区切りとなった100ゴールを決めた試合後、大久保は次なる目標として「(中山雅史選手・157点や、三浦知良選手・139点といった)偉大な人たちに追いつきたいですね」と述べている。中村憲剛を筆頭に、稲本潤一、山本真希。そして最終ラインからも半歩ずらせばパスが出てくる。そんな攻撃的なチームの一員として、偉大な先輩たちの記録に追いつくことは夢物語ではないはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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