高萩は本田らトップ下の牙城を崩せるか?=代表定着へ第一歩を踏み出した“天才”

元川悦子

代表生き残りへの強い思い

高萩は06年のアジア大会を最後に代表レベルの国際舞台から遠ざかっていた。ようやくきた千載一遇のチャンスに、強い意欲を秘めてピッチに立つ 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

 それでも、高萩にとって幸運だったのは、1年で復帰した広島を若手育成に長けたペトロヴィッチ監督が率いていたこと。本人も言うように自分の基礎を作ってくれた指揮官との出会いによって、持ち前の優れたパスセンスや運動量を生かしてゴールに絡む動きに磨きをかけることができた。柏木陽介が浦和レッズへ移籍した10年にJリーグヤマザキナビスコカップのニューヒーロー賞を獲得したことで、Jにおける高萩洋次郎の位置づけが確固たるものとなった。そして森保監督就任1年目の12年、J1制覇の原動力となり、ベストイレブンにも選出された。

 ここ数年で10代後半の停滞感を取り戻すような躍進を見せた高萩。だが、日本代表には無縁の日々が続いた。日の丸をつけて国際大会に出たのも、06年アジア大会(カタール)が最後。この大会を一緒に戦った本田圭佑が攻撃の大黒柱に君臨するザックジャパンにも全く招集されなかった。しかし、本人の中では代表レベルへの渇望が消えたわけではなかった。今回の招集は彼自身にとって千載一遇のチャンス。それがやっと巡ってきたのだから、絶対に逃すわけにはいかない。銀髪の背番号29は強い意欲を秘めてピッチに立った。代表生き残りへの強い思いはプレーの端々からも伺えた。
「中国はアジアのチームなので、普通にはプレーできたと思います。この後の試合はどうなるか分からないけど、しっかり次につながるようなプレーをしていくことが重要です。自分には、代表でトップ下に入っている圭佑や(中村)憲剛さんにはない良さがあるはずです。みんなが持ってない、今までの代表になかった色を1つこのチームに加えられたらいいのかなと思います」

 確かに高萩は、屈強なフィジカルを前面に押し出しつつゴールに絡んでいく本田、個人の打開力とシュート力を武器にする香川真司、パスを主体にゲームメークで中盤に安定感をもたらす中村憲剛のいずれともタイプが異なる。あえて言えば、本田と憲剛の中間に位置する選手かもしれない。中国戦でも憲剛顔負けのスルーパスで繰り返しビッグチャンスを演出しつつ、前や横に幅広く動きながらゴールを虎視眈々(たんたん)と狙っていた。フィニッシュへの迫力では物足りない印象もあったが、中国以上にゴール前を固めてくるオーストラリアや韓国を相手に自ら得点を奪いに行くアグレッシブな姿勢を見せられれば、より大きなインパクトを残せるだろう。

不可欠な守備面での貢献

 東アジアカップの残り2戦で、ザッケローニ監督が柿谷や山田大記をトップ下で起用することもありえるだけに、高萩としてはより幅広いポテンシャルと可能性を示す必要がある。攻撃面で輝きを増すのはもちろんのこと、守備面での貢献も不可欠だ。
「守備では相手のボランチのところを潰すように言われていたので、そこを気にしながらやっていたんですけど、後半、運動量が落ちてルーズになった部分があります。もっと集中しないといけないですね。前からのディフェンスは残り2試合でも重要になってくると思うので、このチームのやり方を理解しつつ、しっかりプレッシャーに行って、奪ったり(パスコースを)限定したり。それができれば、中国戦終盤のような形にはならないと思います」と本人も守備意識を高めている。

 高萩は福島県初の日本代表選手だ。国際Aマッチデビュー戦となった中国戦を、故郷・いわきの出身少年団の子供たちや、植田中学校時代の同級生など多くの人たちがテレビの前で応援してくれたという。そのことも彼を一段と奮い立たせている。2年前の東日本大震災で苦しむ被災地・福島への思いもひと際強い。「いろんな意味で思いを届けられたらいいなと常に思っています」と彼は静かに語っていた。
 期待を寄せる多くの人々のためにも、残り2試合は必ず勝利をもたらさなければならない。今回のザックジャパンの中では年長者の部類に入る26歳の高萩は、チーム全体をリードするくらいの心意気と貪欲さ、積極性を前面に押し出すべきだ。そして代表トップ下の牙城の一角を何とか崩してもらいたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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