ホン・ミョンボ新体制で変革期迎えた韓国=国民の信頼回復へ問われるその手腕

キム・ミョンウ

すべて覚悟の上で受け入れた監督就任

監督代表監督に就任したホン・ミョンボ。ロンドン五輪で韓国に銅メダルをもたらした名将が満を持してA代表を率いる 【Getty Images】

 いま韓国サッカー界は、ある人物を取り巻く話題で一色だ。その人物とは、元韓国代表のホン・ミョンボである。現役時代に韓国代表として史上最多キャップの135試合に出場。日本でもJリーグを代表する韓国人選手として、ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)、柏レイソルでプレーし、柏時代には主将も務めた。現役を引退してからはA代表コーチなどを経て、2012年ロンドン五輪では監督としてU−23韓国代表を銅メダルに導いた。

 そんな彼が韓国代表監督に就任するというニュースを聞いたときは驚いた、というよりも、むしろ高揚感のほうが高かった。大韓サッカー協会は6月24日、韓国代表の新監督にホン・ミョンボ氏が就任すると発表し、契約期間は2年に決まった。
 韓国代表はワールドカップ(W杯)・ブラジル大会への出場権を懸けたアジア最終予選のグループAで2位となり、8大会連続9回目のW杯出場を決めた。2位通過とはいえ、「W杯には出場して当たり前」という韓国国民のプレッシャーの中で韓国代表を率いてきた前指揮官のチェ・ガンヒ監督の功績はある程度、認められていいだろう。

 だが、チェ監督は以前から「代表の指揮は予選終了時まで」と表明しており、実際、予選が終わった6月19日に契約満了で退任。後任が検討されていた。そんななかで浮上したのがホン・ミョンボであり、実際に監督就任へと至った。
 その後、一部韓国メディアは「協会が強引に監督になるよう要請した」、「代表監督就任を固辞した」などと伝えたが、これはうわさでしかなかったことが記者会見で明らかになった。

 ホン・ミョンボは6月25日、ナショナルトレーニングセンターでの記者会見に臨んだ。ロシアで指導者研修を終え、米国・ロサンゼルスから韓国に戻ってきたあとの会見だった。

「充電期間を設け、成長できるチャンスを作るために努力してきました。(ロシアで)フース・ヒディンク監督の配慮もあり、コーチの指導を受けることができたのですが、その時間が自分にとってとても大切な期間でした。サッカーだけでなく、人生を学んだ時間でした」

 そして代表監督を頑なに断っていたといううわさについても「“固辞した”なんて話はない。代表監督というポストは、やるとか、やらないとか、そんな簡単に答えるものでもないでしょう。私は子どもではない。自分で決定する意思がある。やると言えばやる、やらないならそう言ったでしょう。さまざまなうわさは事実ではない」と完全に否定した。
 ピッチの上でも常にリーダーシップを発揮し続けてきたホン・ミョンボらしい言葉に男気ある発言。すべて覚悟の上で代表監督就任を受け入れたということだ。

ロンドン五輪での功績から国民も肯定的

 一方、現場で取材を続けるサッカー担当記者は今回の一件をどのように受けて止めたのだろうか。韓国大手スポーツ紙『イルガンスポーツ』のソン・ジフン記者は「会見での表情と言葉を見る限り、覚悟を決めた上での就任と感じました」と語る。

「当初、ホン監督が代表監督というポジションに対して、否定的な考え方をしていたのは多少あったと思います。ただ、それはロンドン五輪の準備を進めるなかで、体力的、精神的にすべてのエネルギーを使い果たしたなかでのことであり、代表監督というポストに対する危険性についての心配もあったと思います。それでもロシアでフース・ヒディンク監督とともに指導者研修をする過程で、少しずつ自信をつけていったと聞いています。ホン監督はヒディンクに悩みを打ち明け、何が最善の道なのか、アドバイスを求めていました。5月末に研修を終え、米国に向かう前には、次期代表監督に対して肯定的なイメージを持っていたようです。『気持ちは固まった。韓国代表のために犠牲になる準備はできている』と語っているので、期待が持てます」(ソン記者)

 ホン監督は、ブラジルW杯開催まで残り1年だが、基本的な計画はすでに頭の中にあるとも語っている。自信に満ちあふれた堂々とした言葉が今後を期待させるものに映っているようだ。

 また、国民の反応も気になるところだ。インターネット大手ポータルサイト・OSENでサッカー担当のウ・チュンウォン記者は「国内は肯定的な反応を見せています」と語る。

「やはりロンドン五輪で銅メダルを獲得した功績がすべてです。これからの韓国代表を担う監督にピッタリだというイメージを持っているのは間違いありません。特に11年アジアカップと12年ロンドン五輪の主力が、14年ブラジルW杯に出場する可能性が高いのですが、彼らについて誰よりも熟知しているのがホン監督なんです。それも今後、チームを作る上でプラス材料になるでしょう。いずれにしても、選手としても成功を収め、指導者としても結果を残していることが国民への説得材料となっています。ロンドン五輪に出場した選手たちが大きく成長するとの期待もあります。ホン監督がいれば、勝てるといった一種のシンドロームのようなものもあると思いますね」

 これまでの話を聞く限りでは、ホン・ミョンボへの期待の高さをうかがえるが、記者自身の見解も聞いてみた。

 サッカー専門サイト・フットボールリストのリュ・チョン記者は「私も含め、ほとんどの記者がいい結果を残すと予想しています。ただ、W杯まで1年という短い期間に監督を引き受けたという事実に疑問符を投げかける記者も少なからずいます。ですが、これまでホン監督が受け持ってきたチームは安定した結果を残しています。『ホン・ミョンボなら危機を救ってくれるだろう』という意見がほとんどです」と期待を寄せている。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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